沖縄県ではどれくらい賃貸需要が見込める?長期の見通しとリスクコントロールについて
沖縄不動産投資の最大の魅力は、長期的に安定した収益が期待できることです。
これは、全国のほとんどの都道府県が、今後人口・世帯ともに減少していき、賃貸需要も小さくなっていくことに対し、
沖縄県では人口・世帯ともに長期的な増加が見込まれており、賃貸需要も増えていくからです。
しかし、いくら沖縄とはいえ、爆発的に、あるいは永久に賃貸需要が増加するわけではありません。
沖縄不動産投資に間違った認識を抱かないためにも、今後の賃貸需要の動向を正しく把握しておくことが大切です。
本稿では、 長期的な世帯と賃貸需要の動向と、変化に備える考え方について解説していきます。
目次
沖縄県の賃貸物件の増加
沖縄県では、人口と世帯の増加が増えています。さらに、貸家に住む世帯数も増加を続けており、県内の賃貸住宅の建設が増えています。
特に、2000年代以降の動向を見てみると、景気があまり良くなかった2000年代前半、雇用が安定せずに収入面でもマイナスの影響を被る人が増えたことで、持ち家の建設が減少を続け、
その一方で 賃貸需要は高まり、賃貸物件の建設が増加していったのです。
このほかの要素として、那覇新都心で区画整理が完了したこと、モノレールが開通したことなどによって、これらのエリアの需要が高まり、賃貸物件が増加しました。
2007年、建築基準法が改正されたことに伴い、2006年までに駆け込み需要として賃貸物件の建築が急速に伸び、その後は低調を続けていました。
しかし、2010年以降は再び増加基調となり、2013年から2017年まではアパートローンの金利が下がった影響もあり、高水準で推移を続けています。
2013年、消費税増税に伴う駆け込み需要により、着工戸数は前年比30.5%増の10772戸となりました。2014年以降も毎年1万戸以上で推移しています。
地域別の動向
もちろん、これらの情報は沖縄県全体のデータであり、地域別に違いがあります。
それでも、沖縄県では米軍による軍用地の返還や、観光産業の振興などに伴って、土地区画整理事業による宅地開発が盛んに行われています。
賃貸物件の増減も、このような地域要因の影響を強く受けます。
高水準で推移している2013年以降、着工数が最も多かったのは中部地域であり、年間3000~4000戸台で推移しています。
那覇市を除く南部地域も、2012年までは年間2000戸台であったものが、2013年以降は毎年3000戸前後で推移しています。
ただし、 北部地域の増加は緩やかであり、よく増加しても毎年1000戸というレベルです。
このほか、リゾート開発などによって、急速に需要が高まっている地域では、高水準で推移する傾向があります。例えば八重山地域や宮古島地域で、急速な増加がみられています。
2018年に入ってから、中部地域での着工数は大幅に減少しているほか、北部地域と南部地域でもおおむね減少傾向にあります。ただし、豊見城市や南風原市、八重瀬町など、局地的な増加も見られます。
なお、2018年度全体でのデータは、2019年3月現在、まだ公開されていないため、詳細は不明です。もっとも、 中途発表のデータを見る限り、大きな変動はないものと思われます。
とはいえ、今後は徐々に落ち着いてくる可能性もあります。2017年以降、特に2018年にはスルガ銀行の問題もあり、 金融機関から融資を受けることが難しくなってきています。
2013年以降の貸家の着工件数の増加は、アパートローンによって融資を受けやすかったことが大きな理由の一つとなっていることから、融資を受けられない人が多くなり、着工件数に歯止めがかかる可能性があるのです。
しかし、沖縄不動産投資の人気が高まっているため、融資を受けられる層からの投資が増加することで、今後もあまり変わらない推移が続く可能性もあります。
賃貸需要はどうなる?
以上のように、沖縄県では賃貸物件の数が順調に伸びています。これは、賃貸需要があるからこそ新築も増えているのですから、着工件数から賃貸需要の高さが分かります。
実際、沖縄県の将来的な世帯数の増減と、賃貸物件に住む世帯数の増減を見てみると、 賃貸需要が安定していることが分かります。2015年から2040年までの、沖縄県の世帯数と貸家に住む世帯数の推移は、以下のように予測されています。
世帯数 | 増減率 | 貸家に住む世帯数 | 増減率 | 割合 | |
2015年 | 559,000 | 0.00% | 234,000 | 0.00% | 41.86% |
2020年 | 600,000 | 7.33% | 263,000 | 12.39% | 43.83% |
2025年 | 627,000 | 4.50% | 284,000 | 7.98% | 45.30% |
2030年 | 642,000 | 2.39% | 295,000 | 3.87% | 45.95% |
2035年 | 646,000 | 0.62% | 300,000 | 1.69% | 46.44% |
2040年 | 648,000 | 0.31% | 304,000 | 1.33% | 46.91% |
この表のように、2040年まで世帯数の増加が続いています。2025年までに大きな増加を見せた後、徐々に増加が落ち着いていく流れです。
賃貸物件に住む世帯数も、2020年、2025年と大きく伸びた後、徐々に伸び率が鈍化していく流れとなっており、おおむね似たような推移です。
ただし、世 帯数に対する貸家に住む世帯数の割合は年々多くなっており、賃貸需要は伸びていくことが分かります。
これは、沖縄県の県民所得が全国最下位になっていること、県の主要産業が観光サービス業であり、製造業などによる大規模かつ安定した雇用が生まれにくいことなどから、持ち家の取得が困難なことが理由です。
したがって、沖縄の経済環境が大きく改善されない限り、賃貸物件への需要は安定すると考えられます。
これが、沖縄不動産投資において、長期的に安定した収益が期待できると言われる理由です。
需要と供給のバランスをチェック
上記のように、沖縄県の人口や世帯数、賃貸物件に住む世帯数は増加しており、賃貸需要は安定しています。
しかし、これによって沖縄不動産投資の環境が100%安定しているとは言い切れません。
なぜならば、需要は供給とのバランスで見るべきであって、需要だけでは判断できないからです。
例えば、賃貸物件の需要が100、供給が80であれば供給が足りない状態ですから、不動産投資には絶好の環境です。
しかし、需要が年率5%ずつ伸びていたとしても、供給が年率10%ずつ伸びていたとすれば、
需要 | 供給 | |
1年目 | 100.0 | 80.0 |
2年目 | 105.0 | 88.0 |
3年目 | 110.3 | 96.8 |
4年目 | 115.8 | 106.5 |
5年目 | 121.6 | 117.1 |
6年目 | 127.6 | 128.8 |
7年目 | 134.0 | 141.7 |
8年目 | 140.7 | 155.9 |
9年目 | 147.7 | 171.5 |
10年目 | 155.1 | 188.6 |
というように、6年目で供給が需要を上回り、その後は空室リスクが高くなっていきます。
近年、沖縄で多くの賃貸物件が建設されているのは、需要が見込めるからです。
実際、沖縄県の賃貸物件の稼働率は、全国平均に比べると極めて高く、まだまだ足りていないとする見方もあるほどです。
もちろん、沖縄県の賃貸物件の全てが満室で稼働しているわけではなく 、LIFULL HOME’Sのデータでは、沖縄県の空室率が11.7%となっています。
将来的な空室率を予測する
空室率は、「賃貸需要の増加率>賃貸物件総数の増加率」という関係である限り低下していきます。
しかし、「賃貸需要の増加率<賃貸物件総数の増加率」という関係になれば、空室率は高まっていきます。
したがって、沖縄不動産投資で長期的な戦略を練っていくためには、賃貸需要の増加率と、賃貸物件総数の増加率の現状を把握し、将来的な推移を予測し、 投資環境の変化に備えておくことが大切です。
今のままでは供給過剰になってしまう
上記に示した通り、LIFULL HOME’Sのデータでは、沖縄県の空室率は11.7%となっています。
しかし、一般財団法人南西地域産業活性化センターの推計では、2015年時点での空室率が17.0%となっており、LIFULL HOME’Sのデータとは大きな隔たりがあります。
これはおそらく、LIFULL HOME’Sのデータでは、LIFULL HOME’Sが独自に(自社で取り扱う賃貸物件のデータなど)集計した空室率であるのに対し、
南西地域産業活性化センターのデータでは、賃貸需要がほとんど見込まれない賃貸物件(極端なボロ家や田舎エリアの物件など)も含まれていることが原因と思われます。
したがって、実際に賃貸需要が見込まれる、自社取り扱い情報を中心として算出された、LIFULL HOME’Sのデータを基準と見て問題ないと思います。
ここでは、南西地域産業活性化センターが出している貸家総数のデータを用いて、将来的な空室率の増加についてまとめますが、実際にはLIFULL HOME’Sが示すように、やや低い水準で見てよいでしょう。
賃貸物件の着工戸数が2017年の8割で推移した場合
まず、賃貸物件の着工戸数が、2017年の8割で推移した場合を考えます。
なぜ8割であるかと言えば、これが過去の沖縄における平均的な年間着工戸数に近いと考えられるからです。
1998年から2017年までの20年間では、賃貸物件の着工戸数の平均は8942戸であり、これは2017年の着工戸数が11085戸の8割にあたる8868戸とほぼ同じです。
今後の沖縄で、新築の賃貸物件がこのような水準で増えていく場合、2040年までの空室率は以下のように上昇していきます。
(※表の「貸家総数」では、取り壊しなどによって除去される物件も考慮しています)
貸家に住む世帯数 | 増減率 | 貸家総数 | 増減率 | 空室率 | |
2015年 | 234,000 | 0.00% | 282,000 | 0.00% | 17.0% |
2020年 | 263,000 | 12.39% | 320,000 | 13.48% | 17.8% |
2025年 | 284,000 | 7.98% | 352,000 | 10.00% | 19.3% |
2030年 | 295,000 | 3.87% | 384,000 | 9.09% | 23.2% |
2035年 | 300,000 | 1.69% | 414,000 | 7.81% | 27.5% |
2040年 | 304,000 | 1.33% | 444,000 | 7.25% | 31.5% |
上記の通り、「貸家に住む世帯数(賃貸需要)の増加率<賃貸物件総数の増加率」という関係であるかぎり、空室率は高まっていきます。
この表では、すべてのタイミングにおいてその関係であることから、空室率が年々高まっていくことが分かります。
賃貸物件の着工戸数が2017年の水準で推移した場合
ちなみに、賃貸物件の着工戸数が2017年の水準で推移を続けた場合には、以下の表のようになり、空室率はさらに高まっていきます。
貸家に住む世帯数 | 増減率 | 貸家総数 | 増減率 | 空室率 | |
2015年 | 234,000 | 0.00% | 282,000 | 0.00% | 17.0% |
2020年 | 263,000 | 12.39% | 326,000 | 15.60% | 19.3% |
2025年 | 284,000 | 7.98% | 370,000 | 13.50% | 23.2% |
2030年 | 295,000 | 3.87% | 411,000 | 11.08% | 28.2% |
2035年 | 300,000 | 1.69% | 452,000 | 9.98% | 33.6% |
2040年 | 304,000 | 1.33% | 491,000 | 8.63% | 38.1% |
このような状況がいつまでも続けば、空室リスクは高まり、投資熱は冷めるため、いつまでも2017年水準で増加し続けるわけではありません。
今後、徐々に賃貸物件の新築着工戸数は減ってくるはずです。
沖縄の人口・世帯の増加や、賃貸需要の増加を過信しないための、ひとつの資料と考えてください。
リスクコントロールのためのシミュレーション
毎年、賃貸物件の着工戸数のデータは公表されるため、エクセルなどで計算することによって、貸家に住む世帯数の増減率と、貸家総数の増減率を比較してみるのが良いでしょう。
大きな変化がなければ、今後数年にわたって同じような状況が続くと仮定し、空室率への影響を見極めていくのです。
例えば、貸家に住む世帯数の予測はそのままとして、シミュレーションしてみましょう。
南西地域産業活性化センターの推計したデータを使い、2015年を起点として、空室率が維持されるべき貸家戸数の推移をシミュレーションしてみると、以下の表のようになります。
貸家に住む世帯数 | 増減率 | 貸家総数 | 増減率 | 純増加数 | 空室率 | |
2015年 | 234,000 | 0.00% | 282,000 | 0.00% | ー | 17.0% |
2020年 | 263,000 | 12.39% | 316,940 | 12.39% | 34,940 | 17.0% |
2025年 | 284,000 | 7.98% | 342,232 | 7.98% | 25,292 | 17.0% |
2030年 | 295,000 | 3.87% | 355,476 | 3.87% | 13,244 | 17.0% |
2035年 | 300,000 | 1.69% | 361,484 | 1.69% | 6,008 | 17.0% |
2040年 | 304,000 | 1.33% | 366,291 | 1.33% | 4,808 | 17.0% |
ここで注意しておきたいのが、貸家総数の純増加数は、着工件数とイコールではないことです。
なぜならば、築古物件の取壊しなどを考慮する必要があるからです。
毎年の取壊し件数については、過去の建築の動向などによっても左右されるため、毎年変動するものです。
しかし、建築技術の向上などにより、取壊し件数は年々少なくなる傾向が見られます。
毎年の着工件数の30%分に相当する取壊しであると仮定すれば、着工件数は純増加数の130%となるため、
純増加数 | 着工件数 | 1年あたり着工件数 | |
2015年 | ー | ー | ー |
2020年 | 34,940 | 45,422 | 9,084 |
2025年 | 25,292 | 32,880 | 6,576 |
2030年 | 13,244 | 17,217 | 3,443 |
2035年 | 6,008 | 7,810 | 1,562 |
2040年 | 4,808 | 6,250 | 1,250 |
といったシミュレーションが成り立ちます。これによって、空室リスクのコントロールがしやすくなります。
例えば、空室率が17%を維持するためには、2020年から2025年の着工件数は、1年あたり6576件でなければなりません。
着工件数が発表されたとき、8000件と発表されていたとすれば、自分のシミュレーションよりも多いため、「賃貸物件の供給が多すぎるから積極な投資は控えよう」「空室率が高くなる可能性があるから、他の物件との差別化を図ろう」と考えることもできます。
このような将来予測を頼りにしつつ、戦略的に投資していくことによって、沖縄不動産投資をより有利に進められることと思います。
まとめ
世帯の増加と賃貸需要の増加が著しいため、近年では賃貸物件の新築もどんどん増えていますが、その流れがいつまでも続くとは思えません。
いずれは需要と供給のバランスが一致し、着工件数も減ってくるはずです。
しかし、供給過剰に陥る可能性も十分にあるため、毎年の着工件数をウォッチングしておくことで、環境の悪化を早めに察知することが大切です。
そうすることによって、リスクを抑えながら沖縄不動産投資を進めていくことができます。
沖縄は確かに不動産投資に適していますが、それを過信することなく、リスクコントロールに努めてください。