軍用地が手に入りにくい現状を具体的なデータで見てみよう
軍用地投資は、収益が非常に安定しており、今後長期的に利回りが上昇していくことも期待できる、優良な投資対象です。
一般的な不動産投資と比べて、空室リスクがないこと、管理が不要であること、節税メリットが大きいことなども魅力です。
しかし、このように魅力的な投資対象であるからこそ、軍用地に投資したいと考える人が増えています。
また手放したいと考える人が減り、軍用地を手に入れることが難しくなっています。
本稿では、具体的なデータを用いながら、軍用地を手に入れる難しさについて解説していきます。
目次
軍用地投資の難しさ
軍用地投資は、ある意味において簡単な投資であり、またある意味において難しい投資です。
軍用地投資が簡単と言える理由は、投資の分かりやすいこと、管理が不要であること、収益が安定していることなどによります。
すなわち、
- 軍用地投資は、基地用地として利用されている土地を購入し、日本政府から支払われる借地料が収益となる投資である
- 軍用地は、その土地に基地を運営する米軍あるいは自衛隊によって管理され、地主は一切管理する必要がない
- 日本政府は、国防の観点から絶対的に軍用地を必要としており、借地料を必ず支払う。また、借地料は毎年増額され、利回りが年々上昇していく
ということです。
では、軍用地投資の何が難しいのかというと、 軍用地の供給が需要を遥かに上回っているため、軍用地を購入する機会が得られにくいことです。
軍用地は収益の安定性に優れているため、これを売りたいと考える地主は少なく、供給が不足しています。
一方、安定して収益を得られる投資先を求める投資家による需要は大きく、人気は年々高まっています。
また、当然ながら軍用地の面積は限られており、米軍再編に伴う基地の返還・移転によって面積は縮小傾向にあります。
売りたい人の少なさに加えて、供給される可能性がある軍用地の絶対数が減少しているのです。
投資したいと考える全ての人に軍用地が行きわたることはなく、むしろ少数の売り物件に多数の投資家が集中している状況です。
軍用地の売却情報が掲載されると、数時間の内に買い手が決まってしまうほどの人気ぶりです。
このように、投資したくとも機会が得られにくいことが、軍用地投資の難しさと言えます。投資してしまえば、これほどリスクが少なく、簡単な投資はないのですが、投資するまでのハードルが高いのです。
他の不動産と比べれば明らか
軍用地投資が手に入りにくいことは、軍用地の取引件数のデータをみても明らかです。
軍用地の取引件数は、一般の不動産に比べて圧倒的に少ないことが分かっています。
この参考となるデータとして、不動産DI調査があります。
これは、各都道府県の不動産関連事業者にアンケートを実施し、その結果から地価動向、賃貸動向、取引件数動向などについてポイントを算出し、指数化したものです。
沖縄県では、平成26年11月に第1回調査結果が公表されており、最新の調査結果は令和1年5月に公表されています。
調査結果のうち、取引件数動向をまとめると、以下のようになります。
H26.11 | H27.5 | H27.11 | H28.5 | H28.11 | H29.5 | H29.11 | H30.5 | H30.11 | R1.5 | |
宅地 | -3.1 | 12.9 | 6.4 | 11.0 | 9.9 | 21.2 | 22.5 | 22.2 | 28.1 | 19.1 |
マンション | 2.9 | 11.9 | 8.5 | 0.0 | 7.5 | 26.4 | 20.1 | 3.0 | 9.7 | 5.9 |
戸建て | -6.2 | 12.2 | 12.4 | 6.1 | 7.2 | 18.5 | 26.9 | 17.3 | 16.1 | 4.6 |
軍用地 | -11.7 | -9.9 | -13.2 | -21.3 | -19.0 | -3.1 | -2.7 | 4.0 | -21.3 | 4.4 |
このデータは、沖縄県の不動産関連事業者に対し、
「前回(半年前)の調査時に比べて(令和1年5月公表の調査であれば、平成30年11月公表の調査時点に比べて)、それぞれの不動産の取引件数について増加を実感しているか、あるいは減少を実感しているか」
というアンケートを実施し、ポイント化したものです。
したがって、調査結果がプラスであれば、沖縄県の不動産関連事業者が半年前より取引の増加を実感しており、マイナスであれば取引の減少を実感していることになります。
もし、プラスの結果が続いていれば、取引件数は増加を続けていることとなり、マイナスの結果が続いていれば、取引件数は減少を続けていることとなります。
このデータから、宅地・マンション・戸建てなど、一般的な不動産の取引件数が増加を続けているのに対し、軍用地の取引件数は減少を続けていることが分かります。
宅地・マンション・戸建てでは、取引件数のポイントがマイナスになっています。
すなわち沖縄県の不動産関連事業者が取引件数の減少を実感しているのは、宅地と戸建てでは平成26年11月のみ、マンションにおいては全ての調査時点でプラスの結果となっています。
つまり、平成26年11月以降、宅地・マンション・戸建ての取引件数は、増加を続けているのです。
一方、軍用地の取引件数を見てみると、取引件数が増加したのは平成30年5月の調査と、令和1年5月の調査のみです。
平成26年11月から平成29年11月まで、軍用地の取引件数は減少を続け、平成30年5月にわずかに増加したものの、平成30年11月には-21.3ポイントの大幅な減少、令和に入ってからまたわずかに増加という流れです。
このデータから、軍用地を購入する機会が年々減少しており、投資するまでのハードルは高くなっていることが分かります。
今後の予測
軍用地の取引件数が減少を続けている理由を、明らかにするデータはありません。
あえて推測するならば、
“個人や家系で古くから軍用地を所有している人の中には、沖縄の歴史の流れの中で軍用地を所有するに至っており、投資としての観点を持たず、売却を考える人も比較的多かった。
しかし、ここ数年で軍用地投資の魅力を知る人が増え、投資としての観点から軍用地を取得する人が増えた。
これにより、軍用地の所有は「投資として軍用地を所有してない人」から「投資として軍用地を所有する人」へと移っていった。
軍用地を優良な投資先とみなし、売却に消極的な所有者の割合が増えたことで、軍用地の取引件数は減少を続けている。”
と考えられます。
あくまでも推測に留まりますが、この推測が正しければ、「 今後も軍用地の取引件数は減少を続け、投資のハードルが高まっていく」という予測が成り立ちます。
相続に伴う売却などが一時的に増え、取引件数がプラスに転じる可能性もありますが、大幅な増加にはならないでしょう。
また、そのような売却は恒常的なものではなく、取引件数が持続的に増加するとは考えにくいです。
沖縄県不動産鑑定士協会は、令和1年11月の軍用地の取引件数動向を、「5.7%のプラス」と予測しています。
今後、取引件数がいくらか増加していくと考えているようです。
しかし、これまでの調査結果から、この予測はあてになりません。
実際に、各調査での予測と実績を比較してみると、
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 第6回 | 第7回 | 第8回 | 第9回 | |
予測 | -17.6 | -6.2 | -13.6 | -21.2 | -5.0 | -3.0 | -8.8 | 6.1 | -10.3 |
実績 | -9.9 | -13.2 | -21.3 | -19.0 | -3.1 | -2.7 | 4.0 | -21.3 | 4.4 |
乖離 | 7.7 | -7.0 | -7.7 | 2.2 | 1.9 | 0.3 | 12.8 | -27.4 | 14.7 |
というように、ほとんどの調査で大きく乖離した結果となっているのです。
第8回で、プラスの予測が大幅なマイナスになっているケースも見られるように、次回(第11回、令和1年11月)の予測がプラスになっているとはいえ、あまり期待はできません。
むしろ、近年の軍用地投資の現状を考えると、マイナスになる可能性もかなり高いと考えるのが自然でしょう。
まとめ
本稿では、「投資の機会が得られにくい」という軍用地投資の難しさについて、不動産DI調査を参考に解説しました。
これによって、一般的な不動産投資に比べて、軍用地投資は投資するまでのハードルが高いことが分かったと思います。
今後も、この傾向が大幅に改善されることは考えにくいです。
これから軍用地投資に取り組む人は、様々な媒体を調べたり、地元の不動産業者との付き合いを深めたりすることによって、軍用地投資のチャンスを広げていくことが何よりも重要です。