軍用地の返還リスクはどう考える?返還予定の詳細とともに解説

軍用地投資の大きなリスクの一つは、返還リスクです。

これは、投資した軍用地が返還されることで、借地料が得られなくなるリスクです。

しかし、 返還された軍用地は、区画整理事業によって値上がりする可能性も高いため、返還予定の軍用地でも投資対象になることがあります。

返還リスクを的確に見積もり、返還予定の軍用地に投資していくためには、返還予定の詳細を知ることが重要です。

本稿では、軍用地の返還予定の詳細と、返還リスクの判断に役立てる方法について解説していきます。

軍用地投資と返還リスク

軍用地投資は、ローリスク・ミドルリターンの投資であり、リスクの低さに大きな魅力があります。

しかし、軍用地投資も投資である以上、リスクはゼロではありません。

軍用地投資の大きなリスクとされているのは、「返還リスク」です。

返還リスクとは、投資した軍用地が返還されるリスクです。

そもそも、軍用地投資によって得られる主な収益は、政府が毎年支払う借地料です。

返還された軍用地はただの土地になるため、借地料も支払われなくなり、収益が損なわれるリスクがあります。

返還された軍用地は、エリアによっては区画整理の対象となります。

もともと軍事施設として利用されていたため、危険物質の問題なども考えられますが、政府は返還後に危険物質を取り除いたうえで所有者に引き渡すことを約束しています。

そのため、再開発には問題ありません。

返還後に危険物質を除去するには、一定の期間を要します。

また、危険物質を除去して引き渡した後も、区画整理事業が認可され、土地から収益が見込まれるまで時間がかかります。

この期間、政府は借地料を支払わないものの、借地料相当の給付金を支給することを約束しています。

危険物質の除去にかかる期間はもとより、引き渡し後3年間にわたって、給付金が支払われ続けるのです。

このため、軍用地投資には返還リスクがあるとはいえ、返還後すぐに収益が断たれるわけではありません。

返還予定の軍用地が値上がり

返還予定の軍用地の中には、立地条件が良く、区画整理・再開発に適した土地も多いです。

例えば、

  • 牧港補給地区
  • キャンプ瑞慶覧
  • 普天間飛行場

などの軍用地は、沖縄本島を縦に貫く交通の大動脈・国道58号線沿いの土地であり、返還後に一等地に生まれ変わることが見込まれています。

返還が予定されている軍用地でも、返還後に値上がりすれば売却益が得られます。

このため、 返還予定の軍用地を購入する投資家も多いです。

返還予定があれば、軍用地投資本来に魅力は損なわれますが、人気化すれば値上がりします。

例えば、2019年1月時点の相場の倍率

(軍用地の競争率。軍用地価格は「借地料×相場の倍率」で算出される)を見ると、

  • キャンプ瑞慶覧:48~50倍
  • 普天間飛行場:48~51倍
  • 那覇港湾施設:53~55倍
  • 牧港補給地区:60~65倍

といった倍率で取引されています。

現在、最も返還リスクが低いとされる嘉手納飛行場は、58~60倍で取引されています。

返還予定のないその他の軍用地も、おおむね50倍前後です。

このように、返還予定の軍用地でも、その後の値上がりが期待できるならば、

返還予定のない軍用地とあまり変わらない、あるいはそれ以上の倍率で取引されていることが分かります。

これから軍用地投資を始める人も、返還予定の軍用地の売却情報を目にする機会があるかもしれません。

返還予定の軍用地でも、返還されるまでは借地料が得られますし、返還後も給付金が得られ、さらに区画整理による値上がりも期待できます。

また、予定通りに返還が進まず、借地料を得られる期間が長期化することも十分に考えられます。

返還予定の軍用地も、場合によっては投資の対象になり得るのです。

返還予定の軍用地の詳細

現在、返還が予定されている軍用地は、すべて嘉手納飛行場より南に位置する軍用地です。

嘉手納飛行場は、沖縄の軍用地のなかでも米軍にとって最も重要であり、返還は考えられません。

また、沖縄県の機能の多くは、沖縄本島の南部に集中しているため、基地と住民の衝突が多いほか、基地の返還による経済的なメリットも大きいため、返還の対象になりやすいのです。

したがって、 返還予定のない軍用地に長期投資したいならば、まず嘉手納飛行場がその筆頭であり、それ以外では嘉手納飛行場以北の軍用地を選ぶのが基本です。

現在の返還予定では、

  • キャンプ瑞慶覧
  • キャンプ桑江
  • 普天間飛行場
  • 牧港補給地区
  • 那覇港湾施設

が対象となっています。

外務省が公表している資料によって図示すれば、以下の通りです。

返還予定は変わる

この資料が公表されたのは2019年3月31日です。

予定される返還の時期は、日米両政府の協議によって3年ごとに更新されます。

最初の資料が公表されたのは2013年ですから、上記の資料は2度目の協議の結果、更新されたものです。

軍用地投資に取り組むならば、返還リスクを正しく見積もるためにも、3年ごとの協議によって予定の変更がないかどうか、しっかりと把握することが大切です。

実際、2013年の返還予定と、2019年の返還予定を比較してみると、いくつかの相違が見られます。

2013年の協議では、返還予定は以下のように決められました。

 

2013年の協議以降、返還が実現した軍用地は以下の通りです。

  • 2015年3月31日に返還されたキャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区(51ha)
  • 2017年7月31日に返還された普天間飛行場の一部(東側沿いの土地4ha)
  • 2013年8月31日に返還された牧港補給地区の北側進入路(1ha)
  • 2018年8月31日に返還された牧港補給地区の一部(国道58号線沿いの土地3ha)

これらの軍用地は、

  • キャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区(予定通り2014年度末に返還)
  • 普天間飛行場の一部(予定→2022年度、実際→一部を2017年度に返還、大部分は返還の途中)
  • 牧港補給地区の北側進入路(予定通り2013年度に返還)
  • 牧港補給地区の一部(予定→2025年度、実際→一部を2018年度に返還、大部分は返還の途中)

となっており、予定通りに進むものもあれば、少しずつ返還を進めているものもあります。

しかし、2019年の資料と比較すると、牧港補給地区の第5ゲート付近の区域が、

  • 2013年資料では「2014年度又はその後」

を予定していたものの、

  • 2019年資料では「2019年3月31日返還済」

となっており、従来の予定から4年遅れて返還されていることが分かります。

もっとも、資料の記載は全て「○○年度又はその後」と記載されています。

返還予定はあくまでも予定であり、記載されている年度は最短の場合です。

予定通りに進まない可能性も織り込んでおき、予定通りに進まなかった場合に備えているわけです。

牧港補給地区第5ゲート付近地域は2019年に返還されており、最短の年度から遅れているものの、「“又はその後”」の返還予定は履行されたと言えます。

しかし、軍用地に投資する人としては、最短の年度を目安に判断するため、「又はその後」を基準とすることはできません。

このように、返還の見通しがずれることがあるため、最新の資料の予定が絶対とは言い切れません。

返還後の値上がりを期待して、近い将来に返還が予定されている軍用地に投資したところ、予定通りに返還が進まず、投資計画が狂うこともあり得ます。

次回の協議は2022年ですが、協議の内容によって、返還予定が変更されることは十分に考えられるため、最新の資料には注意を払っておく必要があります。

また、返還予定に影響を与える可能性がある情報、例えば沖縄特有の軍用地問題などにも注意しておいたほうが良いでしょう。

それぞれの返還予定の区分

返還予定の軍用地にも、返還計画が予定通りに進めやすい土地・進めにくい土地があります。

返還対象となる面積が大きいエリアや、そのエリアの基地が担う機能が大きいエリア、移転先が遠いエリアなどになれば、予定通りに進まない可能性も高まります。

返還されるエリアの基地は、どこか別の地域に移転する必要があります。

このため、

  • 移転先の地域と信頼関係を築くこと
  • 基地の機能(軍事機能だけではなく、インフラや米兵の住宅や娯楽施設なども含む)を移すこと

など、様々な段取りが必要となります。

移転先の住民の反発が強ければ移転は難航しますし、機能の移転にも多くの時間を要します。

返還の難易度を知るためには、返還の流れの区分が手がかりになります。

返還予定の地域は、

  • 必要な手続の完了後に速やかに返還可能となる区域
  • 沖縄において代替施設が提供され次第、返還可能となる区域
  • 米海兵隊の兵力が沖縄から日本国外の場所に移転するに伴い、返還可能となる区域

に区分されています。

投資先を決めるにあたっても、

  • できるだけ長く借地料を得たいならば返還に時間がかかる区分を選ぶ
  • 区画整理による売却益を狙うならば返還の進みやすい区分を選ぶ

などの判断が必要となります。

牧港補給地区第5ゲート付近の軍用地のように、予定通りに返還が進まないこともあります。

そこで、予定通りに返還されるかどうかの見通しをつけるためにも、その区域の返還の区分によって考えるのがおすすめです。

現在、返還が予定されている軍用地を、それぞれの区分に当てはめると以下の通りです。

必要な手続の完了後に速やかに返還可能となる区域

最も返還が容易な地域は、対象となる面積が小さい、あるいは移転する機能が複雑ではない地域です。

この区分に該当する区域は、

  1. キャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区(52ha。返還済み)
  2. 牧港補給地区の北側進入路(1ha。返還済み)
  3. 牧港補給地区の第5ゲート付近の区域(2ha。当初の予定から4年遅れるも返還済み)
  4. キャンプ瑞慶覧の施設技術部地区内の倉庫地区の一部(10ha。最短で2019年度に返還予定)

です。

既に、1~3のエリアは返還が完了しており、4もまもなく返還を予定しています。

いずれも、移転対象となる面積が小さいことが分かります。

52haの西普天間住宅地区は、さかのぼれば1998年から部分返還の合意がされていたことにより、容易に返還が進みました。

沖縄において代替施設が提供され次第、返還可能となる区域

次に、 返還の難易度が高い地域です。

この区分では、移転する面積が大きい、あるいは移転する機能が複雑であるために、代替施設の確保にも時間がかかります。

具体的には、

  1. キャンプ桑江(68ha全面返還。最短で2025年度に返還予定)
  2. キャンプ瑞慶覧のロウワー・プラザ住宅地区(23ha。最短で2024年度に返還予定)
  3. キャンプ瑞慶覧の喜舎場住宅地区の一部(5ha。最短で2024年度に返還予定)
  4. キャンプ瑞慶覧のインダストリアル・コリドー(62ha。最短で2024年度に返還予定)
  5. 牧港補給地区の倉庫地区の大半を含む部分(129ha。最短で2025年度に返還予定)
  6. 那覇港湾施設(56ha全面返還。最短で2028年度に返還予定)
  7. 陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファーム(16ha全面返還。最短で2022年度に返還予定)
  8. 普天間飛行場(481ha全面返還。最短で2022年度に返還予定)

です。

最も早いエリアでも2022年度を予定されており、まだまだ時間がかかります。

1~3のエリアは、全て2024~2025年度までの返還を目指しています。

全て、キャンプ瑞慶覧のうち返還予定のないエリアに全て移設されます。

このエリアは、主に米軍の住宅地として利用されています。

このため、移設に伴って新たに住宅を建設する必要があり、約910戸の建設が予定されています。

新築する住宅が多いこと、できるだけまとめて移設する必要があることから、3つのエリアが2024~2025年度を目指して取り組んでいるのです。

4、5、7、8のエリアは、それぞれの機能を複数のエリアに分散して移設する必要があるため、移設に時間がかかります。

特に 普天間飛行場は、返還する面積も大きく、また県外の航空基地に移転する機能も多いです。

このため、2022年度を予定しているものの、返還計画に狂いが生じる可能性も考えられます。

今後の進捗には注意しておきたいものです。

しかしながら、今年6月にシャナハン米国防長官代行が訪日し、

河野太郎元外務大臣(現国防大臣)と会談した際には、普天間飛行場の移設を着実に進めるとのコミットメントを再確認しています。

このほか、8月19日にデビッド・バーガー米海兵隊総司令官(今年7月17日、第38代米海兵隊総司令官に就任)が訪日し、河野太郎元外務大臣と会談した際にも、やはり普天間飛行場の移設に協力して取り組んでいくことが確認されています。

このように、日米両政府とも、普天間飛行場の移設には積極姿勢を崩していませんから、予定が大幅に狂う懸念は今のところありません。

4の那覇港湾施設は、既存の基地に移転するのではなく、浦添ふ頭地区に49haの施設を建設したうえで移転されます。

このため、この区分で最も長い2028年度までの返還を目指しています。

米海兵隊の兵力が沖縄から日本国外の場所に移転するに伴い、返還可能となる区域

これは、 沖縄から国外への移転を含むものです。

もっとも、国外に移転するとはいえ、必ずしも返還が難航するとは限りません。

沖縄県内での移転では、沖縄戦の歴史によって反感を抱く人も多く、移転先との折衝に苦労することも多いのですが、国外であれば候補地も多く、それほど困難ではないのです

この区分には、

  1. キャンプ瑞慶覧の追加的な部分(返還面積、返還予定ともに未定)
  2. 牧港補給地区の残余の部分(142ha。最短で2024年度に返還予定)

が該当します。

1のキャンプ瑞慶覧の追加的な部分とは、米軍側が「 国外移転によって部分的に返還できる可能性がある」と述べているものです。

具体的にどの部分を返還するかについては、まだ統合計画の作成途中であり、詳細は未定です。

牧港補給地区の残余の部分は、キャンプ瑞慶覧とキャンプ・コートニーに移設するのに時間を要しており、最短でも2024年度の予定です。

部隊が国外に移転することについては、移転する部隊への支援機能を解除することだけであり、それほど問題にはならないはずです。

まとめ

本稿では、軍用地の返還予定についてまとめました。

複数のエリアが返還の対象となっていますが、それぞれ返還される面積や機能が異なり、返還に要する期間も異なることが分かります。

具体的な内容を見れば、

  • なぜすぐに返還できるのか

あるいは

  • 返還に時間がかかるのか

といった理由も分かったと思います。

このような知識があれば、返還リスクを適切に考え、投資判断に役立てることができます。

ぜひ、軍用地投資の際には、返還予定の詳細にも目を向けていきましょう。

最初のコメントをしよう

必須