返還予定の軍用地でも、場合によっては買い。しかし過信は禁物

軍用地投資は、基本的には借地料による収益を期待するものであり、返還予定のない軍用地に投資するのがセオリーです。

しかし現在、返還が予定されている軍用地の価格が急騰しています。

借地料を主な収益源と考え、 長期投資を前提とする軍用地投資において、売却益を狙った短期投資に取り組む投資家も非常に多いのです。

では、なぜ返還予定の軍用地が買われるのでしょうか。

また、本当にそのような軍用地を買っても問題ないのでしょうか。

本稿では、返還予定の軍用地が投資対象になる理由と、投資する際の注意点について解説していきます。

返還予定の軍用地には投資可能?

軍用地投資の最大のポイントは、長期投資にあります。

軍用地投資は、政府が借り手となり、安定して借地料が支払われるため、非常にリスクが低いです。

これによって、長期投資に向いており、多くの資産が孕む「持ち続けるリスク」がありません。

持ち続けるリスクとは、例えば株式投資であれば、その株を持ち続けることによって、倒産・値下がりなどによる損失を被るリスクのことです。

また、軍用地の借地料は年々増額されていきます。

購入価格に対する借地料、つまり利回りが年々増加していくのです。

もちろん、借地料が上昇すれば軍用地の価値も上がっていきます。

このため、借地料でも儲るだけではなく、売却でも儲けることができます。

したがって、軍用地投資は基本的に長期投資を前提としています。

長期投資のためには、 返還予定のない軍用地、例えば嘉手納飛行場などに投資することが重要です。

しかし、現在、既に返還が予定されている軍用地でも、場合によっては投資対象になり得ます。

例えば、浦添市の牧港補給地区、宜野湾市の普天間飛行場、北谷町のキャンプ瑞慶覧などが返還予定の軍用地でありながら、投資家から人気を集めています。

返還が予定されていれば、近いうちに借地料は得られなくなり、長期投資はできません。

それでも投資対象になり得る理由は、 返還後に土地が値上がりし、売却益が期待できるためです。

返還予定の軍用地もローリスク

返還が予定されている軍用地に投資し、土地の値上がり益を期待すると言えば、 ハイリスクな土地への投機のように感じられるかもしれません。

しかし、実際にはローリスクな投資です。

まず、返還されて借地料が得られなくなるといっても、軍が撤退した後には政府が危険物質の除去を行ないます。

そして、区画整理事業の計画が認可され、土地の使用・収益について見通しが立つまでの期間中、政府は借地料相当の給付金を支給し続けます。

また、現在返還が予定されているエリアは、沖縄県の主要な道路である国道58号線沿いにあるため、 返還後の区画整理事業によって、地価が大幅に値上がりする可能性があります。

特に、最近の沖縄県は、土地の値上がりが目覚ましいです。

全国的に人口の減少が続く中で、沖縄県の人口は増加を続けています。

さらに、観光業の伸びが目覚ましく、リゾート開発も盛んです。

これにより、沖縄県内で不動産業が盛り上がり、土地が値上がりしているのです。

近い将来、 返還が予定されている軍用地では、この流れにうまく乗って、高値で売り抜けられる可能性があります。

以上のように、

  • 借地料が支払われずとも、給付金によってカバーできる
  • 返還予定の軍用地が、開発の対象になる可能性が高い
  • 沖縄県の不動産業が盛り上がっている

といった理由から、返還予定でありながらリスクが低く、リターンが期待でき、投資対象になり得るのです。

過信は禁物

ただし、返還予定の軍用地が値上がりすることは、あくまでも可能性の話です。

現在の状況から考えて、数年以内に返還が予定されているエリアでは、その可能性も十分に考えられるということであって、

「返還予定の軍用地は、必ず値上がりする」とは限りません。

過信が禁物であると言える理由は、以下の通りです。

沖縄不動産業の盛り上がりが続くとは限らない

現在、沖縄の不動産業界は非常に盛り上がっており、土地の価格も大幅に値上がりしています。

近年、 全国的に土地が値上がり傾向にあり、特に大都市や中核都市での値上がりが堅調です。

しかし実際には、大都市や中核都市の値上がりが全国平均の地価推移を牽引しており、地方都市の多くは横ばいや値下がりの傾向にあります。

そんな中、大都市でも中核都市でもなく、日本最南端の都道府県である沖縄県の土地が、全国でも目立った値上がりを見せています。

ここに問題があります。

沖縄県は、県民総生産や県民所得で見た場合、全国的にかなり低い位置にあります。

そんな沖縄県で、大都市や中核都市をしのぐ勢いで土地の価格が上がり続けていることは、沖縄の経済や県民の実態から遊離するように、地価が上がっていると指摘する専門家もいるのです。

上がりすぎた地価は、やがて下落に転じます。

地価が上昇すれば、そこに居住用物件や商用物件などを建築する際の原価率は高くなり、物件の売値や賃料も上昇します。

これを購入したり、賃貸したりするのは、多くは沖縄県内の法人や個人なのですから、沖縄県の経済レベルや県民所得レベルで購入・賃貸できる水準でなければ成り立ちません。

したがって、 地価がいつまでも上昇していくことはなく、いずれは下落に転じるのです。

返還予定の軍用地も同じです。

このような軍用地は、返還後に区画整理事業が実施された後、住宅地や商業地として高値で売ることを目的としています。

しかし 、返還後に危険物の除去や区画整理事業に多くの時間を要する可能性もあります。

この期間中に、沖縄県の不動産業界の盛り上がりが鎮静化し、徐々に値下がりしていけば、期待したほどの売却益を得られないことも考えられるのです。

区画整理事業も絶対ではない

いうまでもなく、返還予定の軍用地を高値で売却するためには、前提として区画整理事業が実施されなければなりません。

国道58号線沿いの軍用地は、確かに跡地利用に最適な土地です。

しかし、跡地利用計画を進めるためには予算が必要です。

跡地利用計画は、県や市町村が計画を立て、有識者やその土地の住民、土地所有者などと一緒に進めていきます。

多くの計画では、跡地に商業施設、医療施設、リゾート施設などが建設される計画となります。

県民総生産が豊かではない沖縄県が、単独で実施できるものではありません。

また、跡地利用計画は、第二次世界大戦後に米軍が進駐し、その土地が返還されたことで実施されるものです。

沖縄県側の主張としては、そもそも沖縄戦が行なわれず、米軍が進駐することがなければ、跡地利用計画も不要だったはずであり、政府の責任を追及することが可能です。

このため、 政府は跡地利用計画にあたり、財政支援を確約しています。

しかし、現在の日本の財政は逼迫した状況にあります。

日本が抱える長期債務の残高は、2017年末時点で約900兆円となっており、これを返済するために公債の発行を繰り返しています。

2018年には、国債の利払いが税収の15%に達しています。

近年の消費税増税からも、政府の焦りが分かるでしょう。

まさに自転車操業の状態であり、危険性は年々高まっています。

政府が力を入れるべきは、歳出の削減と歳入の増加です。

それに努めても、財政状況が好転するとは考えにくく、悪化を緩和する効果しか期待できません。

そんな中、 跡地利用計画に対して、政府が巨額の財政支援に踏み切るでしょうか。

財政支援を確約している以上、跡地利用計画に予算を割くことは間違いありませんが、大規模な開発が可能なレベルの支援が受けられるかどうかは未知数です。

人口推移にも注意

さらに注意しておきたいのが、沖縄県の人口推移です。

全国的に人口減少が続く中、沖縄県は人口の増加が続いています。

人口が増加し続ける都道府県は、転入者によって人口が増加する東京都、そして自然的に(出生率が死亡率を上回っている)人口が増加する沖縄県だけです。

2018年度のデータにおいて、沖縄県は出生率・死亡率ともに全国一位です。

出生率は11.3%であり、二桁台の都道府県は沖縄県のみです。

死亡率は8.4%ですから、出生率は死亡率より2.9%高く、自然増減率がプラスになっている都道府県も沖縄県のみです。

自然増減率が2.9%であるということは、毎年人口1000人あたり29人が増加することになります。

これが、沖縄県の経済成長や地価上昇の原動力にもなっているのですが、この流れは永遠に続くものではありません。

沖縄県といえども、いずれは人口減少に転じます。

国立社会保障・人口問題研究所の推計を見ると、沖縄県の人口は以下のように推移すると予測されています。

総人口 2015年比
2015年 1433566 0.00%
2020年 1459570 1.81%
2025年 1468236 2.42%
2030年 1469847 2.53%
2035年 1465761 2.25%
2040年 1452321 1.31%
2045年 1428305 -0.37%

この表の通り、沖縄県の人口は2030年まで増加を続けた後、減少に転じることが予測されています。

現在、沖縄県は最も人口に恵まれていますが、 それでも出生率は年々下落しています。

医療の発達によって死亡率は下がりますが、死亡率の低下には限界があります。

高齢者人口が増えれば、人口1000人当たりの高齢者の割合は高くなり、死亡率も増加していくのが自然な流れです。

よって、いずれは沖縄県でも出生率が死亡率を下回り、人口が減少に転じると考えられるのです。

さて、上記の通り、政府は財政難を理由に、跡地利用計画へ予算を割くことが難しくなってきています。

これに加えて、沖縄県の人口が減少に転じ、高齢者の割合が高くなっていけば、 跡地に大規模なリゾート施設や商業施設を作る合理性が乏しくなります。

これも、政府の財政支援が期待しにくくなる理由と言えます。

返還予定の軍用地には慎重に投資しよう

以上のような理由から、返還予定の軍用地への投資は、返還されない軍用地への投資に比べてリスクが高くなります。

沖縄県の不動産バブルが下火になれば、地価が十分に値上がりしない可能性があります。

また、政府の財政支援が不十分になれば、跡地利用計画は計画を縮小せざるを得ず、期待していたほど土地が値上がりしないかもしれません。

近い将来返還される軍用地であれば、まだまだ沖縄県の不動産業界が盛り上がっており、政府の財政や沖縄県内の人口などの問題が小さいうちに、跡地利用計画が進む可能性もあります。

この場合、期待通りに地価が上昇し、売却益を得られることでしょう。

しかし、現在返還が予定されている軍用地の中でも、返還計画が長期にわたって進められる地域には注意が必要です。

例えば、

  • 最短で2025年に返還予定のキャンプ桑江
  • 最短で2025年に返還予定の牧港補給地区の倉庫地区
  • 最短で2028年に返還予定の那覇港湾施設

などは、5~10年先、あるいはそれ以上にわたって返還計画が進められます。

そのため、この期間中、沖縄経済や政府財政がどのように変化していくか、十分に見通すことが困難です。

もちろん、現在の返還計画に盛り込まれていない軍用地も、今後返還が検討される可能性があります。

当然ながら、そのような軍用地は一層見通しが立ちにくいです。

したがって、返還後の跡地利用による収益を見込んで軍用地に投資するならば、できるだけ短期間のうちに収益が実現するエリアを狙うことが重要です。

あくまでも、 返還後の軍用地が必ず値上がりするという過信は禁物なのです。

まとめ

近年、返還が予定されている牧港補給地区、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧などの軍用地が高値で取引されています。

牧港補給地区に至っては、返還リスクがほぼないとされる嘉手納飛行場以上の倍率で取引されているほどです。

これはすべて、返還後の値上がりを見越しての投資です。

軍用地から一等地に変われば、多額の売却益が得られるはずですが、本稿で解説した通り、 値上がりは絶対ではないことを知っておくべきです。

もちろん、通常の土地投機に比べてはるかにリスクが低く、大きなリターンも期待できるため、魅力的な投資には違いないでしょう。

しかし、 過信することなく、慎重な姿勢で臨むことが大切です。

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