沖縄の地価の高騰は危険?地元でも広がる懸念の声
近年、不動産投資の人気が高まっていることや、経済成長が続いていることなどから、沖縄県の地価が急騰しています。
地価が上昇するとき、バブル崩壊やサブプライム危機などの悪い記憶がよみがえり、危機感を抱く人も多いのではないでしょうか。
本稿では、沖縄県の地価の動向を正しく捉えるべく、現地の声や地価が経済に与える影響について解説していきます。
目次
沖縄不動産投資の2つ強み
沖縄県は、他の都道府県と比較して、不動産投資環境が非常に良いと言える強みをたくさん持っています。
まず、 人口が増加していることです。
沖縄県は出生率が非常に高く、女性一人当たりが生涯で出産する人数も多く、死亡率は非常に低いという特徴があります。
また、経済発展が遅れている地方都市では、転出者が転入者を大きく上回る、つまり人口の流出によって人口減少を招くのが普通なのですが、沖縄県では転出者と転入者がほとんど プラスマイナスゼロの状態を保っています。
つまり、沖縄県は人口が増加する要素はあっても減少する要素はなく、 人口が長期的に増え続ける環境にあるのです。
さらに、沖縄県は直近の20年間における経済成長率が全国で最も高く、特に観光産業が目覚ましく発展しています。
外国人観光客数は、2008年比で1000%以上の増加となっており、2017年には外国人観光客数でハワイを上回っています。
観光産業は、製造業のような大規模かつ安定した雇用につながりにくいため、観光産業に偏ることは、経済成長にとって好ましくない側面も持っています。
しかし、県民総生産は着実に伸びており、それに伴い県民所得が高まっているのは事実です。
上記のように、人口動態と経済成長という、不動産価格に大きな影響を与える両面から見て、沖縄不動産投資が盛り上がるのは当然の結果と言えるでしょう。
地元で広がる懸念の声とは
近年、沖縄では不動産価格が上がり続けていますが、これは地価の上昇・家賃の上昇から考えて当然のことであり、今後もこの流れが続けば不動産価格は上がっていくと考えられます。
特に、沖縄県内での地価の上昇はかなり急激なものとなっています。
平成30年の公示地価を見てみると、 基準地価平均は全国第12位の10万5272円/㎡となっており、上昇率では全国第4位の前年比6.74%となっています。
このような上昇は、那覇市西部のオフィス街や那覇新都心、あるいはモノレール延伸に伴って新設される駅周辺の土地など、沖縄県の一部の高騰がけん引しているきらいがありますが、それにしても沖縄県の県民所得が全国最下位であることを考えると、地価が異常な高さを示していると言えます。
実際、基準地価平均ランキングで1~11位を見てみると、一都三県と言われる東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県、大都市圏を擁する大阪府・福岡市・愛知県・宮城県、その他に京都府・兵庫県・広島県と、経済的に発展した都府県ばかりが名を連ねています。
その下に沖縄県が続くのは、やはりどこか異常な感じを覚えます。
このような地価の上昇について、沖縄県内の新聞である琉球新報でも、
- 「不動産投機が過熱してバブル状態を招かないよう、国や県は安定した土地利用に向けた計画づくりや広域的な調整機能を政策として行うべきだ。」
- 「バブル崩壊の再来とならないよう、国や県は投機マネーの動向を監視し、県全体の土地利用に目配りをすべきであろう。」
などの懸念の声が挙がっているほか、県宅地建物取引業協会の知念聡会長も、
- 「県民の仕事が安定して所得が多くなることで少しずつ地価が上がっていくのがベストだ。今は急すぎて所得がついてきていない。」
とのコメントを出しています。
地価の上昇が経済成長の足かせに?
地価が上昇していることは、沖縄経済への期待の表れと考えることもできます。
しかし、地価の上昇が経済成長の足を引っ張る可能性があることも事実です。
このことは、沖縄県の地価と経済の関係について、相関係数を調べてみるとよくわかります。
相関係数とは、データ同士の相関性を調べる指標であり、以下のように、相関係数rの値がどの範囲であるかによって相関の強さを見るものです。
相関係数r | 相関性 | ||
-1 | ≦r≦ | -0.7 | 強い負の相関 |
-0.7 | ≦r≦ | -0.4 | 負の相関 |
-0.4 | ≦r≦ | -0.2 | 弱い負の相関 |
-0.2 | ≦r≦ | 0.2 | ほぼ相関なし |
0.2 | ≦r≦ | 0.4 | 弱い正の相関 |
0.4 | ≦r≦ | 0.7 | 正の相関 |
0.7 | ≦r≦ | 1 | 強い正の相関 |
正の相関であれば、一方の数値が上ればもう一方の数値も上がる、一方の数値が下がればもう一方の数値も下がるというように、同じ方向に動く関係です。負の相関であれば、互いに逆の動きをします。
現時点で得られている2008年から2018年の沖縄県の平均地価(全用途)と、2008年から2015年までの県民所得と県内総生産について相関係数について調べたところ、以下のような結果が得られました。
地価 | 県民所得 | 県内総生産 | |
2008 | 93,300 | 2,687,093 | 3,603,260 |
2009 | 92,000 | 2,711,945 | 3,610,585 |
2010 | 89,800 | 2,759,838 | 3,631,259 |
2011 | 90,000 | 2,822,306 | 3,751,533 |
2012 | 87,300 | 2,783,542 | 3,723,329 |
2013 | 87,700 | 2,935,736 | 3,900,835 |
2014 | 89,900 | 2,966,879 | 3,903,328 |
2015 | 90,900 | 3,104,409 | 4,030,839 |
2016 | 92,700 | ||
2017 | 98,200 | ||
2018 | 105,300 |
【相関係数】
地価 | 県民所得 | 県内総生産 | |
地価 | 1 | ||
県民所得 | -0.29 | 1 | |
県内総生産 | -0.35 | 0.99 | 1 |
この相関係数を見れば、県民所得と県内総生産が強い正の相関であるのは当然ですが、地価と県民所得・県内総生産の関係は弱い負の相関にあることが分かります。つまり、地価が上がれば経済成長は悪い方向へ弱いマイナスの影響を受けるということです。
これは、単に数字の上だけのことではなく、実際にそのような影響が表れます。
例えば、地価が上昇すれば、企業が新規に出店するための土地の取得費用や地代が高くなってしまい、 積極的な事業展開が難しくなります。
また、地価が高くなれば固定資産税も高くなるため、商業施設やオフィスビルのオーナーは、入居している店舗に家賃の引き上げを要求するでしょう。
その結果、 店舗の経営が圧迫され、撤退を余儀なくされる可能性もあります。
そうなった場合、高い固定費を負担できる資金力のある店舗、例えば全国チェーンなどが増えていき、地元資本が市街地から締め出されていくことになります。
さらに、地価が上昇しすぎたことによって、撤退する会社が増えたり、進出する会社が減ったりすれば、土地の需要は低下し、地価が急落する可能性もあります。
そうなった場合、担保になっていた土地の価値が低下して担保割れに陥り、金融機関は多くの不良債権を抱えることとなり、 金融業界に深刻な問題をもたらします。
もちろん、評価損となった土地を抱え続けること、あるいは土地を担保として資金調達ができなくなることなどによって、企業の財務も悪化するでしょう。これによる経済的な影響も小さくないと考えられます。
楽観視せずに見守ること
以上のように、地価と経済における負の相関は、確かな形で起こると考えられます。
弱い負の相関であっても、地価の上昇が著しい場合にはそれなりの経済的影響が懸念されるため、地価の動向はしっかりと見守っていく必要があるでしょう。
もちろん、地価の上昇そのものは悪いことではありません。
しかし、地価は経済の体温計ともいわれるように、急激な変動は多くの問題につながります。
地価が徐々に上昇していき、負の影響を軽微なものにとどめ、地価の上昇を支えられるように経済も成長していく状況がベストです。
しかし、地価の動向を見守るとは言っても、どこをどう見守ればよいか、どうなったら危険なのかという基準がありません。
適正な地価が分からないからこそ、地価が大きく変動した場合にも、懸念の声が上がるだけで、具体的な対策は実施されないのです。
そこで、少なくとも 急激な上昇には敏感になっておく、全国平均との乖離を気にかけておく、経済成長率と地価の上昇率の乖離に違和感を抱くなどの感覚を持っておくべきでしょう。
沖縄不動産投資の環境は良いものであり、それは間違いないことです。
しかし、他の都道府県では投資環境が悪いだけに、沖縄に投資家の熱視線が注がれた結果、地価の高騰が経済成長の鈍化、金融への悪影響、ひいては不動産投資環境の悪化を招く可能性もあることを知っておき、楽観視しないことが大切と言えるでしょう。
まとめ
沖縄県の地価は、ここ数年で急激な上昇を見せています。
経済成長率と地価上昇率に大きな乖離が発生しており、これによって経済成長に水を差す可能性も考えられます。
もちろん、沖縄県の人口が増加していること、賃貸需要が高まっていること、経済が発展していくこと、とりわけ今後も観光産業で大きな発展が見込まれることなど、不動産投資に適した条件をたくさん備えているのも事実です。
地価だけを理由に沖縄不動産投資を敬遠することなく、また楽観視しすぎることもなく、バランスの取れた姿勢が重要となるでしょう。