第3次嘉手納爆音訴訟で国に賠償命令。それでも嘉手納飛行場の返還リスクは「ほぼゼロ」と断言できる理由

沖縄では、基地問題が度々話題となります。

特に、 米軍の飛行場周辺では、住民が騒音問題や事故に悩まされることが多く、住民が訴訟を起こすこともしばしばです。

嘉手納飛行場周辺でも訴訟が続いており、第一次訴訟、第二次訴訟で国が賠償を命じられています。

先日も第三次訴訟の判決が下り、国が賠償を命じられました。

基地と住民のトラブルは、軍用地投資の大きなリスクになることがあります。

返還リスクがないと言われている嘉手納飛行場は、果たして本当に返還されないのでしょうか

本稿では、嘉手納爆音訴訟の概要と、嘉手納飛行場の返還リスクについて解説していきます。

第三次嘉手納爆音訴訟の判決下る

9月11日、第三次嘉手納爆音訴訟の判決が下りました。

嘉手納爆音訴訟は、嘉手納基地周辺で米軍機の騒音に悩む住民2万2千人が、深夜・早朝の米軍機飛行の差し止めと、損害賠償を国に求めて起こしたものです。

これまでにも、第一次・第二次と訴訟が起こされ、いずれも国に賠償が命じられています。

第三次訴訟では、福岡高裁那覇支部が国に対し、総額約261億2577万円の支払いを命じています。

損害賠償請求が認められたことで、住民側の勝訴と見ることもできますが、住民側は納得していません。

というのも、第三次訴訟で認められた賠償額は、第一審判決の賠償額を下回っていたからです。

第三次訴訟の一審判決では、第二次訴訟の倍額である301億3862万円の賠償としていたのですが、最終的には上記の通り261億2577万円と減額されています。

爆音による被害は認定されたものの、理由は明示されることなく減額となったのですから、住民側には不満が残っています。

また、 飛行差し止めが認められなかったことからも、住民側の勝訴とは言えないでしょう。

飛行差し止めについては、裁判所が認める・認めないという以前に、差し止めを求めることができません。

なぜならば、米軍機に対して日本政府は指揮・命令権がないためです。

このため、第三次嘉手納爆音訴訟の原告の一部は、アメリカ政府に飛行差し止めと損害賠償を求めるべく、対米訴訟も起こしています。

しかし裁判所は、日本の裁判権の範疇ではないという理由から、アメリカ政府に訴状を送ることも、口頭弁論を開くこともなく棄却しました。

以上のように、第三次嘉手納爆音訴訟は、住民側にとって不満の残る結果となりました。

要求が通らなかったのですから、さらなる賠償と飛行差し止めを求める可能性は高いです。

今後の裁判でも、裁判所は飛行差し止めについて、これまでの姿勢を貫くでしょう。

既に、指揮権・命令権・裁判権などを理由に棄却しているのですから、今後の裁判で認めてしまうと、従来の判断の誤りを認めることになります。

また、他の米軍基地でも同様の訴訟が起こった場合、飛行差し止めを認めざるを得なくなり、基地の運営、ひいては国防上の問題にもなりかねません。

一方、損害賠償については、これまでも認めてきたことを認めないわけにはいかず、今後も認める必要があります。

訴える側としても訴訟を起こせば、とりあえず損害賠償は認められる可能性が高いのです。

したがって、騒音問題で日常生活を妨害されたり、ストレス反応によって健康を損なったりする住民への金銭的補償のために、今後も損害賠償を求める訴訟は続くと考えられます。

返還リスクになるか

このような問題が起こったとき、軍用地に投資したいと考える人は、返還リスクについて考えることと思います。

軍用地投資で得られる主な利益は、政府が毎年支払う借地料です。

基地が返還されれば、軍用地は単なる土地となってしまい、借地料も得られなくなります

もっとも、返還された土地が区画整理によって値上がりし、売却益を得られる可能性も高いです。

とはいえ、軍用地であれば永久に利益が得られるため、軍用地投資は基本的に長期投資を前提としています。

このため、 軍用地投資では返還リスクの低い軍用地を買うのが基本となります。

たびたびトラブルが起きていれば、基地の運営にも支障を来たす可能性があるため、潜在的な返還リスクを高める懸念があります。

世界一危険な基地とも言われる普天間基地の返還が決まったのも、その背景には

  • 米軍ヘリ墜落事故
  • 米軍兵士の問題行為
  • 騒音問題

などによって住民の反対運動が激化したことが大きな原因となっています。

普天間飛行場との違い

しかし、 嘉手納飛行場の返還リスクを、普天間飛行場と同じように考えることはできません。

住民とのトラブルによって、嘉手納飛行場が返還に至る可能性はゼロではないとしても、限りなくゼロに近いです。

そもそも、普天間飛行場が返還された最大の理由は、米軍の再編にあります。

米兵の少女暴行事件を端緒として、米軍基地への反発が強まったのは1995年のことです。

しかし、 基地の整理縮小、地位協定の見直しを求める運動が活発化したものの、基地の移設はなかなか実現しませんでした。

この9年後、米軍ヘリ墜落事故が起き、地元住民の返還要求がさらに強まりました。

この時、ちょうど米軍は世界規模で再編を進めているタイミングであったため、日米両政府はこの機に乗じて移設に本腰を入れるようになりました。

つまり、普天間飛行場の返還は、米軍の再編に沖縄本島の海兵隊の削減が盛り込まれただけなのです。

住民の運動が実り、米軍を基地返還に追い込んだというよりも、米軍の再編を進めつつ、住民の反発も抑えることができ、アメリカにとって好都合だったからこそ返還が実現したともいえます。

嘉手納飛行場の重要性

このように考えると、米軍がさらなる再編を進めるとき、嘉手納飛行場も返還の可能性があるように思えるかもしれません。

しかし、その可能性もほぼゼロです。

なぜならば、嘉手納飛行場は米軍にとって、普天間飛行場とは比較にならないほどに重要だからです。

もし、米軍にとって普天間飛行場が欠かせない基地であれば、いくら反対運動が起こっても、再編の途中でも、返還は実現しなかったはずです。

普天間飛行場を返還しても、嘉手納飛行場があれば戦略的に大きな問題が生じないからこそ、普天間飛行場の返還が決まったのです。

したがって、

普天間飛行場が返還されたことで、嘉手納飛行場も返還されるかもしれない

と考えるのは誤りです。

正しくは「普天間飛行場が返還されたことで、嘉手納飛行場はさらに返還されない可能性が高まった」と考えるべきです。

嘉手納飛行場の戦略的重要性について詳しく知ることで、嘉手納飛行場の返還リスクを正しく知ることができます。

極東最大の空軍基地

まず、 嘉手納飛行場は、極東最大の空軍基地です。

極東」とは、

  • 東アジア
  • 東北アジア
  • 東南アジア一帯

を指す言葉であり、

  • 極東ロシア
  • 中国
  • 朝鮮半島
  • フィリピン以北の東南アジア全体

などの地域です。

嘉手納飛行場の面積は20㎢弱であり、日本最大の空港である羽田空港の約2倍に相当します。

また、 嘉手納飛行場は3700mの滑走路を2本有しています。

これは、4000m・2500mの滑走路を有する成田国際空港、3500m・4000mの滑走路を有する関西国際空港に匹敵します。

この規模により、嘉手納飛行場はスペースシャトルの緊急着陸地に指定されていたこともあります。

軍容を見ても、100機の軍用機が常駐しているほか、

  • アメリカ人18000人・日本人4000人によって構成される混成航空団「チーム・カデナ」
  • 空軍特殊部隊である第353特殊戦航空群
  • 毎月650機が稼働し、12000人以上の人員・3000トン以上の物資の輸送能力を持つ第733航空輸送隊
  • 太平洋全域の偵察任務を担う第82偵察隊

などが所在しており、大規模であることが分かります。

これに対し、普天間飛行場の面積は4.8㎢であり、2700mの滑走路が1本であるため、嘉手納飛行場の3分の1程度の規模にすぎず、軍容もそれ相応です。

抑止力としての機能

沖縄本島に、このような極東最大の空軍基地があることは、アメリカの極東戦略にとって、大変に重要です。

ロシアや中国といった軍事大国に睨みを利かせることができますし、同盟国である日本と連携する上でも役立ちます。

現代の戦争では、陸海空軍が全て連携することで、初めて任務を遂行することができます。

しかし、沖縄の米軍で最も強力な抑止効果を持っているのは、間違いなく空軍です。

陸海空軍が連携して戦闘するとはいえ、防衛で先鋒となるのは空軍です。

というのも、 敵軍もまずは航空部隊によって攻撃するためです。

侵攻側が、いきなり陸軍を派遣して上陸侵攻することはありません。

そんなことをすれば、陸軍部隊の輸送船が海上で攻撃されることもありますし、上陸を待ち構える防衛軍によって殲滅されることもあります。

補給線を断たれ、陸軍が敵地に孤立する可能性も高いです。

このため、 まずは空軍を派遣して海上部隊を叩き、敵地の陸上部隊や基地を攻撃し、補給線も確保するのが定跡です。

これによって、初めて海軍と陸軍が十分に機能することができます。

敵国が日本に侵攻する場合にも、まず空軍が攻撃を仕掛けてくるため、防衛側の自衛隊と米軍も、おのずと空中戦から応じることになるのです。

このとき、すぐに対応できる能力がなければ、敵の一次侵攻を容易に許してしまい、陸軍・海軍の戦力も削がれる可能性が高いです。

したがって、極東最大の空軍基地である嘉手納飛行場は、初期の戦闘で敵に主導権を握らせないため、出鼻をくじくために、非常に重要なのです。

現在、 日本の最大の脅威は、中国人民解放軍です。

中国は、経済の発展とともに急速に軍事力を拡大しており、アメリカも強い危機感を抱いています。

日本を侵略するだけの軍事力はすでに持っているでしょう。

それでも、中国人民解放軍が侵攻できないのは、アメリカ海兵隊が沖縄本島に陣取っており、極東最大の空軍基地・嘉手納飛行場があるためです。

沖縄本島はもちろん、日本の領域に攻撃を加えたならば、嘉手納飛行場からアメリカ空軍が反撃してくることは火を見るよりも明らかです。

空軍の機動力があってこそ

上記のような抑止力は、嘉手納飛行場の空軍だからこそ期待できます。

もし、これが空軍ではなく陸軍であれば、抑止効果は激減します。

沖縄には、陸軍第1軍団の精鋭であるストライカー旅団戦闘団という、超一流の陸軍も常駐しています。

しかし、こ れらの精鋭が沖縄に常駐しているだけでは、大した抑止効果にはなりません。

日本が攻撃を受けたとしても、陸軍はすぐに対応できません。

陸軍だけでは沖縄から出ることはできず、海軍や空軍の輸送がなければ防衛戦に参加することはできないのです。

陸軍が自力で機能できるのは、沖縄本島の地上戦に限られます。

中国人民解放軍は、わざわざ地上部隊と交戦する必要は全くないため、脅威は陸軍の精鋭ではなく、航空部隊です。

扇の要として

さらに 嘉手納飛行場は、極東に睨みを利かせる上で、地理的にも非常に優れています。

極東戦略を立てる上で、嘉手納飛行場はまさに「扇の要」です。

嘉手納飛行場を起点として、作戦行動の範囲を見てみると、

  • 台北まで600㎞
  • 上海まで800㎞
  • ソウルまで1250㎞
  • 香港まで1450㎞
  • 東京とマニラまで1500㎞
  • 北京まで1800㎞

です。

作戦を展開していく上で、極東の主要地域を全てバランスよくカバーすることができます。

海軍と陸軍であれば、揚陸艦隊が急行しても最大で3日ほどかかります。

この間、敵軍の海上部隊から攻撃を受け、援軍の派遣が困難になることも十分に考えられます。

しかし、空軍であれば、航空機ならば2時間程度(近い場所ならば数十分)で移動できます。

地上部隊を派遣するために、低速の輸送機で移動しても4時間あれば十分です。

さらに、嘉手納飛行場の空軍だけではなく、

  • 東京・横田基地の航空部隊
  • 青森・三沢空軍基地の航空部隊
  • ソウル・烏山空軍基地の在韓航空部隊
  • グアム島・アンダーセン空軍基地

の航空部隊などとの連携も可能です。

つまり、嘉手納飛行場は極東全域にスピーディに空軍を派遣できるだけではなく、日本・韓国・グアムに点在する航空基地の連携でも中心となるのです。

扇の要として機能できる地理的好条件は、嘉手納飛行場だからこそ活かせます。

普天間飛行場も、地理的には嘉手納飛行場と変わらない位置にあります。

しかし、 嘉手納飛行場よりもかなり規模が小さく、地理的には好条件であっても、抑止力では嘉手納飛行場に大きく劣ります。

普天間飛行場が返還されても、嘉手納飛行場が返還されることは考えにくいです。

可能性は「ほぼゼロ」と言っていいでしょう。

長期にわたる軍用地投資でも、返還リスクが最も低いのは嘉手納飛行場であり、それは今後も変わりません。

まとめ

現在、 嘉手納飛行場周辺の住民が求めているのは、損害賠償と早朝・深夜の飛行差し止めに限られています。

基地がなくなれば騒音問題も全くなくなり、米軍基地に起因する問題も払しょくされますが、大きな反対運動は起きていません。

しかし、もし嘉手納飛行場の反対運動が激化しても、嘉手納飛行場が返還されることはないでしょう。

嘉手納飛行場がなくなれば、極東における米軍の抑止力は大きく損なわれます。

基地を撤退へ追い込んだ結果、沖縄が容易に侵攻される状況になれば、騒音問題どころか国防問題に悩まされることになります。

また、嘉手納飛行場と同等の抑止力を新たに生み出すためには、

同じような規模・機能を持つ軍事施設を新たに設けるほかなく、それには様々な困難が伴うため、現実的ではありません。

このように考えれば、騒音問題が今後もトラブルの原因になり、地元住民が反対運動を展開する可能性があったとしても、

嘉手納飛行場の返還リスクはほぼゼロであり、軍用地投資にも最適だと断言できるのです。

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