供給過剰になったらどうなる?那覇市は札幌市のようになるか

 

沖縄不動産市場は、賃貸物件の供給不足によって家賃が高まり、新築物件の増加によって地価も高まり、それに伴って物件価格も高まり、不動産投資に適した環境となっています。

しかし、新築物件の着工件数が多く、需要の増加ペースを上回っていることなどから、いずれ供給過剰に陥るのではないかと危惧する意見もあります。

では、供給過剰に陥ったとき、 不動産投資はどのような影響を受けるのでしょうか。また、 沖縄不動産投資は供給過剰になるのでしょうか

本稿では、 供給過剰に陥っている札幌市の事例と、沖縄不動産の需給バランスについて解説していきます。

 

沖縄不動産市場の需給バランス

 

沖縄不動産投資がなぜ魅力的かと言えば、長期的に人口が増加していくこと、経済成長率が高く安定していること、それによって地価や物件の価値、家賃などが高まっており、 長期的に安定した収益が期待できることです。

しかし、なぜこのような需要が生み出されているのかと言えば、 賃貸物件の需要が供給を上回っているからです。

エリアや間取りによっても異なりますが、特に顕著な例を挙げるならば、沖縄県で最も開発が進んでいる那覇新都心では、完全に供給不足の状態です。物件価格や地価、家賃なども大幅に上昇しています。

 

しかし、供給不足のエリアから、その周辺エリアへと人口が流出するなどして、極端なアンバランスが解消される動きもありますし、人口の増加率も徐々に落ち着くことが見込まれるため、 供給不足が解消される、さらには供給過剰になる可能性もないとは言えません

では、供給過剰に陥ってしまった場合、沖縄不動産市場はどのように変化するのでしょうか。

 

需給バランスが壊れた札幌市

供給過剰が不動産投資に与える影響を知るためには、実際の事例を知るのが良いでしょう。

需給バランスが完全に壊れてしまった典型的な例が札幌市です。

そこで、札幌市の事例を知ることによって需給バランスが壊れたときの状況を知ることができます。

 

需給バランスが崩れた事例:札幌市の不動産市場

札幌市は、不動産投資の激戦区として有名です。

札幌市で賃貸物件が急速に増加したのは、2000年代のことです。土地が東京都や大阪府などに比べて安く、人口も多く、経済規模も大きいことから、不動産投資のターゲットとなったのです。

 

その結果、札幌市の賃貸物件の需給バランスは完全に壊れ、供給過剰の状態となっています。LIFULL HOME’Sのデータによれば、札幌市の空室率と家賃は以下のようになっています。

空室率 平均家賃(1R/1K/1DK)
中央区 22.80% 4.4万円
北区 19.90% 3.9万円
東区 21.10% 3.5万円
白石区 27.10% 3.6万円
豊平区 23.30% 3.8万円
南区 19.90% 3.5万円
西区 16.60% 4万円
厚別区 12.90% 3.9万円
手稲区 19.80% 4.1万円
清田区 18.90% 4.1万円
平均 20.23% 3.9万円

このデータによれば、平均的に空室率が20%を超えていることになります。

それほど高いとも思えませんが、駅からの距離や客づけ業者との関係、築年数などによる人気で空室率に大きな差が表れ、格差がかなり広がっているものと思います。

 

また、五大都市の中で比べてみれば、以下のように札幌市は極端に家賃が低くなっています。

平均家賃(1R/1K/1DK)
札幌市 3.9万円
仙台市 5.3万円
名古屋市 5.3万円
大阪市 5.4万円
福岡市 4.5万円

なぜ家賃が低いかと言えば、 供給過剰によって空室リスクが高いため、家賃を下げざるを得ない状況なのです。

 

供給過剰による変化を比較

実際、需給バランスが壊れた当時に書かれた、札幌市の不動産業者の情報を見てみると、以下のような変化が明らかにされています。

2003年頃 2008年頃
広告料 せいぜい家賃1か月分 家賃2~3か月分は当たり前。4ヶ月分ということも
新築物件の成約 完成前に8割以上成約 完成後、半分以上が空室
賃貸契約時の初期費用 家賃4か月分 家賃2か月分

このデータから、供給過剰になったエリアでの不動産投資の難しさが分かります。

 

広告料の影響

 

札幌市では、広告料をたくさん支払わなければ、空室が埋まりません。

新築でさえ埋まらないのですから、競争力に劣る中古物件ではさらに厳しい競争を強いられるでしょう。

広告料が家賃の1ヶ月分の場合と4か月分の場合では、利回りはどのように変化するでしょうか。それを見るために、

  • 物件価格:480万円
  • 借入総額:336万円(頭金3割)
  • 借入期間:25年
  • 借入金利:2%
  • 年間賃料:48万円(満室時。表面利回りは10%)
  • 空室率20%
  • 経費率:20%+広告料

という条件で、利回りへの影響をシミュレーションしてみましょう。

 

【広告料1ヶ月の場合】

空室率20%であれば、年間賃料は38万4000円となり、そこから広告料を1ヶ月分(年間賃料の1/12、4万円)支払うと、以下のような収支状況となります。

家賃収入 経費 収支 ローン返済 税引前CF
384,000 116,800 307,200 172,101 95,099

 

表面利回り10%で購入した物件ですが、広告料や空室率を考慮した実質利回りは約2.0%となります。この実質利回りが得られるならば、決して悪い条件ではありません。

供給過剰になる前の札幌では、このようにまともな投資が可能でした。地価も安い頃に投資しているのですから、その後供給過剰になるにつれて地価や物件価格は高まり、かなりの利益を確保して札幌から撤退することも可能だったと思います。

 

【広告料4か月の場合】

しかし、現在の環境は非常に悪いです。

空室率20%であれば年間賃料は38万4000円、そこから広告料を4ヶ月分(年間賃料の4/12、16万円)支払うと、以下のような収支状況となります。

家賃収入 経費 収支 ローン返済 税引前CF
384,000 236,800 147,200 172,101 -24,901

広告料の負担があまりにも重く、完全な赤字になってしまうことが分かります。

 

成約率の影響

広告料の影響を吸収するためには、利回りを上げる必要があります。

物件価格、借入総額・期間・金利を同じ条件として、空室率20%、広告料4か月分という条件で黒字にするためには、満室時の年間賃料56万円(表面利回り11.7%)になる物件を買うか、家賃を上げることによって、初めてプラスマイナスゼロ(正確には年間367円の赤字)となります。

しかし、そのような高利回りの物件を簡単に手に入れることはできません。

また、新築でも空室を埋めるのに苦労している状況ですから、 多くの場合には適正な家賃水準を上回る家賃に設定することはできません

 

初期費用の影響

もちろん、初期費用をたくさんもらうことによって、広告料の影響を吸収することができます。

初期費用として家賃の4か月分を取ることができれば、広告料4か月分の物件でも、広告料の影響を相殺することができます。

 

しかし、 供給過剰の影響によって広告料が高まる一方で、初期費用は低くなっています

空室を埋めるためには、家賃を下げると同時に初期費用も下げ、入居者の負担を軽減する必要があるのです。

したがって、初期費用によって広告料をカバーすることもできません。

 

以上のように、 供給過剰によって競争が激化すれば、当初の期待利回りを大きく狂わせ、収益性は下がり、赤字に陥るリスクが高くなるのです。

これが、札幌市での不動産投資が上級者向けと言われるゆえんです。

 

沖縄県の需給バランスはどうなる?

融資でレバレッジ

沖縄県でも、供給過剰に陥った場合には、札幌市のような状況になる可能性があります。

最近の盛り上がりを見て、そのような危惧を抱く人もいるでしょう。

 

しかし、このような危険は当分ないとみてよいでしょう。

いずれ、供給過剰に陥る可能性もあると考えて、それを見据えた投資戦略を立てていくことは重要でしょうが、すぐに同じ状況になる可能性は低いと言えます。

 

広告料から見える沖縄の安定性

全国的に見れば、広告料が必要なエリアと不要なエリアのどちらもあるのですが、いくらかの広告料を支払うのが普通です。

広告料の有無や金額を左右するのは、需給バランスです。

賃貸需要が多いエリアでは、オーナーがそれほど努力せずとも空室が埋まるため、広告料を払って不動産業者に頑張ってもらう必要がありません。

しかし、 賃貸需要が少ないエリアでは、空室を埋めるために広告料を多めに支払い、不動産業者に客づけを頑張ってもらう必要があります。

 

札幌市ほどではなくとも、競争が激しい首都圏や大都市圏では、家賃の1.5~2ヶ月分の広告料を支払うのが普通です。

その他のエリアでは、家賃の1ヶ月分が相場です。

しかし、沖縄県全域で言えることですが、 沖縄県では広告料を支払う必要がありません

 

沖縄県の環境は特殊ですから、そもそも広告料という慣習がないという背景もあると思います。

とはいえ、県外からもたくさんの人が沖縄不動産投資に参入しているのですから、空室対策の必要に迫られていれば、広告料を支払おうとする動きは出てくるのが自然です。

したがって、広告料がほとんど支払われていない事実を以て、 沖縄不動産市場は供給過剰に陥っておらず、広告料を支払ってまで空室を埋める必要がないと言えます。

 

もちろん、今後の状況次第では、徐々に供給が需要に追いついてくる可能性もあります。

その場合には、他の都道府県の一般的な水準で、広告料を支払うケースも出てくるかもしれません。

しかし、札幌市のような悲惨な状況になる可能性は低く、なるとしても当分先のことと考えられます。

 

その他な違いから見える沖縄の安定性

また、沖縄県と北海道、那覇市と札幌市では色々な違いがあります。そこからも、沖縄不動産の安定性がうかがえます。

 

人口推移の違い

沖縄県と北海道、那覇市と札幌市の将来人口推計を見てみると、以下のようになっています。

沖縄県 北海道
総人口 2015年比 総人口 2015年比
2015年 1,433,566 0.00% 5,381,733 0.00%
2020年 1,459,570 1.81% 5,216,615 -3.07%
2025年 1,468,236 2.42% 5,016,554 -6.79%
2030年 1,469,847 2.53% 4,791,592 -10.97%
2035年 1,465,761 2.25% 4,546,357 -15.52%
2040年 1,452,321 1.31% 4,280,427 -20.46%
2045年 1,428,305 -0.37% 4,004,973 -25.58%

 

那覇市 札幌市
総人口 2015年比 総人口 2015年比
2015年 319,435 0.00% 1,952,356 0.00%
2020年 320,000 0.18% 1,974,801 1.15%
2025年 318,441 -0.31% 1,976,367 1.23%
2030年 315,673 -1.18% 1,959,483 0.37%
2035年 312,208 -2.26% 1,924,460 -1.43%
2040年 307,164 -3.84% 1,870,991 -4.17%
2045年 300,368 -5.97% 1,805,120 -7.54%

 

都道府県レベルでは、北海道のほうがはるかに減少していくことが分かります。

北海道では、140万人もの人口が減少し、これにともなって賃貸需要も減るのですから、不動産投資への悪影響も免れないでしょう。

 

意外なことに、那覇市と札幌市を比較してみると、それほど大きな違いがないことが分かります。

那覇市では2020年まで増加した後、徐々に人口が減少していくと予想されています。

札幌市では2030年以降に急速に減少していくようです。

最終的な減少率では、札幌市のほうがやや高くなっていますが、双方のデータを比べてみると、大差ない推移となっています。

 

もっとも、投資環境が悪い札幌市の人口減少と、 投資環境の良い那覇市の人口減少では、同じように推移しても全く異なる結果となるでしょう。

札幌市の投資環境はますます悪くなり、那覇市の投資環境は適正水準へと落ち着いていくはずです。

このことからも、那覇市が札幌市のような状況になるとは考えにくいです。

 

経済成長の違い

不動産市況に影響を与える経済成長率も、大きな違いがあります。経済成長率を比較すれば、2000年から2020年で北海道は-2.62%、沖縄県は26.89%となっています。

北海道と沖縄県はもともとの経済規模が大きく異なります。

同期間中、北海道では20兆5810億円から20兆410億円へと約5400億円の減少、沖縄県は3兆5900億円から4兆5550億円へと約1兆円の成長です。

経済規模はまだまだ北海道のほうが大きいですが、じわじわと、しかし着実に経済が後退している北海道に比べて、急速に伸びている沖縄県では、今後も不動産市場への良い影響が期待できます。

 

面積の違い

特に大きいのは面積の違いでしょう。

沖縄県は土地が狭く、米軍基地やその関連施設との兼ね合いもあり、活用できる土地の面積が限られています。

以下のように、かなりの違いがあるのです。

面積 人口密度
沖縄県 2280.98㎢ 636人/㎢
北海道 83423.84㎢ 63.7/㎢
那覇市 39.98㎢ 7967人/㎢
札幌市 1121㎢ 1744人/㎢

 

那覇新都心やそれを除く那覇市などでは、賃貸物件を供給しようにも土地が不足しています。

このため、需要が高まる一方で供給がなかなか追いついていません。

また、他のエリアへ人口が流出することで供給不足が解消される動きがあるものの、その影響によって周辺エリアでも供給不足に陥る可能性があります。

実際、那覇市を取り巻く那覇都市圏の主要エリアでは、物件価格・地価・家賃などが年々高くなっており、 那覇市に限らずその周辺エリアでも、供給が足りていないことが分かります。

 

供給過剰に至る背景の違い

このほか、供給過剰に至った背景を比較してみても、大きな違いが見られます。

札幌市では、主に地価の安さを理由として供給過剰へと突入していきました。

しかし、沖縄県と北海道、あるいは那覇市と札幌市の地価では、以下のようなに大きな違いがあります。

平成30年度公示地価平均
沖縄県 11万9215円/㎡
北海道 6万1641円/㎡
那覇市 22万6678円/㎡
札幌市 13万7418円/㎡

 

札幌市は、現在の地価よりもずいぶんと安かった時代に、不動産投資が過熱して現在の供給過剰に陥りました。

しかし、供給過剰の現時点における札幌市の地価は、那覇市の65%程度にすぎません。

 

地価が安かったことを供給過剰の原因とすれば、地価が高い那覇市がこれから供給過剰に陥っていく可能性は低く、また需給バランスが整うまでに時間を要するでしょう。

地価が高い沖縄県や那覇市では、新築コストが非常に高くつくため、そう簡単に供給過剰に陥るとは考えにくいです。

 

まとめ

流動性重要

本稿では、供給過剰に陥った場合に、不動産投資にどのような影響が表れるか、札幌市を例として解説しました。

札幌市の投資環境の悪化は、極端な供給過剰に陥ったことで、起こるべくして起こったと言えます。

那覇市でも、同じように供給過剰に陥った場合には、同じように悪化していくと考えられます。

 

しかし、沖縄県と北海道、那覇市と札幌市では条件がかなり異なるため、札幌市が供給過剰に陥った例をそのまま沖縄県や那覇市に当てはめることはできず、沖縄不動産投資の環境は今後も安定が続くと考えられます。

あくまでも、需給バランスが壊れたときに備えるために、「酷い場合には、札幌市のような状況になる可能性もある」と 考えておく程度で良いと思います。

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