バブルが指摘される沖縄不動産市場。市場関係者の声をもとにリアルな予測を立ててみる

近年、沖縄不動産市場は活況を呈しており、地価は上昇を続け、賃貸需要も堅調です。

このため、沖縄不動産投資に興味を抱く人も多いのですが、一方ではバブルを指摘する意見もあり、下落の懸念も抱かれています。

これから沖縄不動産投資に取り組む人にとって、今となっては高値掴みの恐れがあるのか、それとも今からでも遅くないのか、気になるところでしょう。

本稿では、沖縄不動産市場の状況を正しく捉えるために、市場関係者の声をもとに、今後の推移を占っていきます。

沖縄不動産市場が過熱?

近年、沖縄不動産市場が非常に盛り上がっています。

このことは、地価の上昇ぶりをみても明らかです。

沖縄県は、全国の都道府県の中でも経済発展が遅れています。

そのようなエリアでは、得てして物価や地価も低く推移するものですが、沖縄県の地価は大幅に上昇しています。

平成31年度の公示価格における、最新年対前年の上昇率ランキングを見ても、沖縄県の土地はTOP10のうち2つ、TOP30エリアのうち6つのエリアがランクインしています。

住宅地・商業地・工業地など全用途の平均上昇率は前年比7.9%であり、2年連続で全国1位の上昇率を記録しています。

この背景には、入域観光客の増加に伴うホテルや商店街の建設・出店ラッシュがあります。

景気の拡大につられて工業地や住宅地も大幅に上昇しているのです。

このような地価の上昇は、沖縄県の実質的な経済レベルと乖離していると見ることもできます。

このため、 投機バブルへの懸念も高まっています。

2019年9月22日の琉球新報の社説でも、以下のように記載されています。

“人口増が続く沖縄県で住宅需要はもともと旺盛だ。

数年前から那覇市やその近郊では地価と建設価格の上昇に所得の上昇が追い付かず、住宅が一般家庭には手の届きにくいものになっている。

沖縄の地価上昇は、回収可能と見なされている証左でもあるが、その影響で一般の人たちが家を持ちづらい状況になっているのは懸念材料だ。

さらに懸念されるのは、不動産投資が需要を超えて過熱してはいないかということだ。

日銀の金融緩和政策が生み出す潤沢な資金は金融市場だけでなく不動産市場に流れ込む。

国土交通省は「実需に応じた取引の結果」と分析するが、今後の影響を注視する必要がある。”

地価の上昇は青天井ではない

琉球新報の社説は、的を射た内容と言えます。

対象が何であれ、価格は際限なく上昇していくものではなく、地価も例外ではありません。

需要があれば地価は上昇していきますが、原則的には損益分岐点を境に頭打ちとなります。

土地を購入・活用し、ホテルをはじめとする商業施設の経営、賃貸物件の経営などに取り組む場合、土地その他に投資した資金を回収できる見込みがあってこそ、投資資金が流れ込みます。

回収が困難なレベルになれば需要は減退し、地価も頭打ちとなるのです。

現在、地価の上昇が続いていることは、投資資金を回収できる見込みが立っているということです。

今後、回収の見込みが立ちづらくなるにつれて、地価の上昇は鈍くなってくるでしょうし、下落の恐れもあります。

逆に、回収の見込みが立つうちは地価の上昇が続きます。

地価・取引件数ともに下落

そこで気になるのが、果たして地価の上昇が続く現在の状況で、

  • 沖縄不動産に投資すれば高値掴みしてしまうのか

あるいは

  • 今後も地価の上昇は続き、まだ十分な採算性があるのか

ということです。

この判断に役立つデータとして、不動産DI調査が挙げられます。

これは、各都道府県の不動産鑑定士協会が不動産関連事業者にアンケートを実施し、その結果から

  • 地価動向
  • 賃貸動向
  • 取引件数動向

などについてポイントを算出し、指数化したものです。

例えば、地価動向のデータであれば、

前回(半年前)の調査時に比べて(令和1年5月の調査であれば、平成30年11月の調査時点に比べて)、地価の上昇を実感しているか、あるいは下落を実感しているか

のアンケートを実施し、ポイント化します。

調査結果がプラスであれば、 沖縄県の不動産関連事業者が半年前より地価の上昇を実感しており、マイナスであれば地価の下落を実感していることになります。

もし、前回の結果が50、今回の結果が30であれば、今回も地価の上昇を実感しているものの、前回に比べると上昇感が和らいだことになります。

また、プラスの結果が続いていれば、地価は上昇を続けていることとなり、マイナスの結果が続いていれば、地価は下落を続けていると考えることができます。

不動産DI調査が示すのは、あくまでも不動産関連事業者の「実感」であり、実際の動向と一致するとは限りません(地価の上昇感が50ポイントであったからといって、半年前から50%上昇したことを示すものではありません)。

しかし、不動産市場で活動する事業者の実感は、かなり頼りになる指標と言えます。

地価が下落する局面で上昇していると感じる事業者はいませんし、地価が上昇する局面で下落していると感じることもありません。

非常にリアルな数値なのです。

したがって、沖縄県不動産鑑定士協会の不動産DI調査で、地価動向や取引件数動向を見ることによって、今後の地価推移を推測する手がかりとなります。

地価はやや下落か

まず、地価動向のデータについて見ていきましょう。

最新データは令和1年5月です。

不動産DI調査が開始された平成26年11月からの半年ごとのデータをまとめると、以下のようになります。

H26.11 H27.5 H27.11 H28.5 H28.11 H29.5 H29.11 H30.5 H30.11 R1.5
住宅地 42.0 51.3 58.8 68.5 71.8 82.8 83.7 74.6 78.9 70.0
商業地 42.4 54.7 64.4 70.7 74.4 80.1 84.8 79.2 85.0 79.5

この結果を見ると、沖縄県では平成26年11月以降、住宅地・商業地のいずれにおいても、上昇を続けてきたことが分かります。

不動産関連事業者は常に上昇を実感し続け、実際の地価も確かに上昇を続けています。

また、 DI値が高いレベルで推移していることにも注目すべきです。

DI値が低ければ、上昇を強く実感している事業者は少なく、

「じわじわと上昇した結果、数年後にまとまった上昇を実感した」

という緩やかな上昇にもなり得ます。

しかし、 DI値が高いことから、上昇を強く実感している事業者が多く、「短期間で力強く上昇している」ことが分かります。

令和1年5月の上昇感を、前回の平成30年11月と比較すれば、住宅地は8.9ポイント、商業地は5.5ポイント、軍用地は6.2ポイントの下落となっていますが、それでも平均74.2ポイントという極めて高い実感値となっています。

したがって、沖縄不動産市場の直近の地価動向は、

「上昇感はやや和らいでいるものの、いまだに地価は強い上昇基調にある」

と考えることができます。

取引件数の減少

地価動向と合わせて、取引件数動向にも注目すべきです。

取引件数が多ければ需要は堅調であり、地価の上昇力になるからです。

取引件数動向のDI値は、以下の結果となっています。

H26.11 H27.5 H27.11 H28.5 H28.11 H29.5 H29.11 H30.5 H30.11 R1.5
宅地 -3.1 12.9 6.4 11.0 9.9 21.2 22.5 22.2 28.1 19.1
マンション 2.9 11.9 8.5 0.0 7.5 26.4 20.1 3.0 9.7 5.9
戸建て -6.2 12.2 12.4 6.1 7.2 18.5 26.9 17.3 16.1 4.6

取引件数動向を見ると、マンションでは平成29年5月に、戸建ては平成29年11月に、宅地は平成30年11月にピークとなっており、それ以降は下落傾向にあります。

平成30年11月と令和1年5月を比較すれば、宅地は9ポイント、マンションは3.8ポイント、戸建ては11.5ポイントの下落となっています。

ピーク時との比較では、宅地は32%、マンションは78%、戸建ては83%の下落率です。

このことから、 取引が最も活発であると実感されていた時期と比較すれば、かなり落ち着いてきたといえるでしょう。

もっとも、実感値が下落傾向にあるとはいえ、プラス圏で推移していることから、現在も取引件数は増加を続けているといえます。

このことから、直近の取引件数動向は、

「取引件数は増加しているものの、ピーク時に比べて落ち着いた状況にあり、緩やかな増加傾向にある」

と考えることができます。

今後の見通し

以上のことから、沖縄の地価は今後どのように推移していくかを考察してみましょう。

地価動向と取引件数動向は、どちらも重要な指標となります。

どちらが先行指標になるかといえば、これは「タマゴが先か、ニワトリが先か」といった問題で、どちらも互いに影響しており、いずれも先行指標になり得ます。

地価が上昇すれば不動産の取得に要する費用も大きくなり、ローンを組むハードルが高くなったり、利回りの低下によって採算性の確保が困難になったりするため、積極的に投資する人が減り、取引件数が減少します。

この意味では、地価動向が取引件数動向の先行指標になるといえます。

一方、 取引件数の減少は需要の減退を意味するため、取引件数の減少は地価の下落要因となります。

この意味では、取引件数動向が地価動向の先行指標になるといえます。

したがって、この二つの指標のうち、現時点で優先すべき指標を先行指標と仮定することとなります。

取引件数動向DI値の減少が意味するもの

今回のケースでは、取引件数動向が下落傾向にあることから、取引件数動向を先行指標と考えるのがよいでしょう。

地価が上昇すれば取引件数は減少し、それに続いて地価動向も下落する蓋然性が高いです。

地価が下がるから取引件数が減少するのではなく、取引件数が減少するからこそ、地価が下がるのです。

ただし、あくまでもDI値は取引件数の増減の実際を表すものではなく、実感を示すものです。

取引件数のDI値が下落しても、それがプラス圏にある限り、取引件数は増加しています。

DI値が下がり、取引件数が緩やかな増加傾向にあることから、

現在の状況が続けば、短期間で需要が大きく伸びることはなく、したがって地価が大幅に上昇することも考えにくい。
地価の上昇も徐々に緩やかになっていく

と考えられます。

また、地価動向のDI値は極めて高い水準にあるため、取引件数動向に引っ張られて下落したとしても、地価動向のDI値はプラス圏に留まる可能性が高いです。

このことからも、近々のうちに地価が下落に転じる可能性は低いでしょう。

地価動向のDI値は続落の予測

以上のように、取引件数動向は下落傾向にありますが、このことは、既に沖縄県の不動産関連事業者も予測しています。

令和1年5月の調査結果では、令和1年11月時点の調査結果(令和1年12月発表予定)が予測されています。

それによれば、令和1年11月の地価動向DI値は、

  • 住宅地・・・25.9ポイント(44.1ポイントの下落)
  • 商業地・・・27.9ポイント(51.6ポイントの下落)

に下落すると予測されています。

プラス圏を維持する、つまり地価の上昇は続くものの、上昇感は大きく和らぐと予測されているのです。

これは、 取引件数動向DI値が下落基調にあることを踏まえた予測と思われます。

取引の増加が緩やかになっていることで、上昇感も和らぐと考える事業者が多いのでしょう。

予測は当たるか?

ただし、地価動向DI値の予測は、当たらない可能性も高いです。

これは、主に以下の理由によります。

シビアな予測である

まず、地価動向DI値の予測は常にシビアです。

実際に、各発表時点における次回の地価動向DI値の予測と、次回発表時の数値を比較すると、常に実績が予測を上回っています。

具体的には、以下の通りです。

H26.
11
H27.
5
H27.
11
H28.
5
H28.
11
H29.
5
H29.
11
H30.
5
H30.
11

































































20.
8
51.
3
28.
4
58.
8
22.
0
68.
5
29.
4
71.
8
31.
5
82.
8
35.
4
83.
7
38.
5
74.
6
45.
3
78.
9
42.
9
70.
0


18.
3
54.
7
29.
8
64.
4
25.
4
70.
7
30.
6
74.
4
33.
8
80.
1
38.
0
84.
8
42.
6
79.
2
49.
4
85.
0
49.
7
79.
5

この表からも分かる通り、市場関係者の予測は常に大幅な下落となっています。

その理由の一つは、リスクマネジメントにあります。

不動産市場で事業を展開する事業者としては、今後の動向を甘く見積もるとリスクを高める恐れがあるため、あえてシビアな予測を立てる必要があるのでしょう。

地価の上昇を厳しく見積もれば、上昇を見込んだ積極投資にも出づらく、収益機会の損失につながる可能性もありますが、希望的観測に陥って損失を被るリスクは軽減されます。

結果的に予測が外れ、地価が上昇することには何の問題もないのですから、シビアに見積もっておいた方が堅実です。

第二の理由として、沖縄の地価はバブルを指摘されるほどに上昇を続けている状況であるため、

「そろそろ落ち着くだろう」

という見方が強くなりがちです。

これも、 地価動向DI値の大幅下落を予測する理由になるでしょう。

取引件数動向は上昇の予測

一方、取引件数動向のDI値は上昇が予測されています。具体的には、

  • 宅地・・・19.0ポイント(0.1ポイントの下落)
  • マンション・・・11.2ポイント(5.3ポイントの上昇)
  • 戸建て・・・15.9ポイント(11.3ポイントの上昇)

と予測されており、宅地はわずかに下落するものの、マンションと戸建ての大幅な上昇を考慮すれば、全体での取引件数は増加することが見込まれています。

もし、予測通りに取引件数動向DIが上昇に転じ、取引件数がより増加すれば、地価の上昇力となります。

このことは、平成30年5月を例にすると良くわかります。

平成30年5月発表の地価動向DI値では、住宅地・商業地ともに下落に転じています。

住宅地は83.7ポイントから74.6ポイントへ9.1ポイント下落、商業地は84.8ポイントから79.2ポイントへ5.6ポイント下落しています。

しかし、平成30年11月発表の地価動向DI値ではどちらも上昇に転じ、商業地は平成29年11月の84.8ポイントを超える85.0ポイントとなっています。

同時期の地価動向DI値と取引件数動向DI値をグラフで比較してみましょう。

H29.5 H29.11 H30.5
地価
動向DI
住宅地 83.7 74.6 78.9
商業地 84.8 79.2 85.0
取引件数
動向DI
宅地 22.5 22.2 28.1
マンション 20.1 3.0 9.7
戸建て 26.9 17.3 16.1

このグラフを見れば、地価動向DI値と取引件数動向DI値が高い相関性を持っていることが分かるでしょう。

つまり、地価動向DI値が下落する局面では取引件数動向DI値も下落傾向を示し、逆に取引件数動向DI値が上昇する局面では地価動向DI値も上昇傾向を示しているのです。

このような両者の関係から、令和1年5月の地価動向DI値の下落は、それ以前から続く取引件数動向DIの下落に連動した結果と捉えるのが妥当です。

したがって、場関係者の予測通り、今後取引件数動向DI値が上昇に転じた場合、地価動向DI値も上昇する可能性が高いです。

これも、今後も地価が下落することなく、上昇を続けると考える材料になるでしょう。

今後の取引件数動向に注目すべき

以上のように、市場関係者の声に耳を傾けるならば、今後も沖縄県の地価は上昇すると考えられます。

もちろん、上昇ペースが鈍ることは十分に考えられますが、すぐさま下落するとは考えにくく、バブル崩壊による急落の可能性も低いでしょう。

ただし、 これは楽観ではありません。

地価が大幅に上昇しているのは事実であり、懸念する声も高まっている今、地価の上昇基調はいずれ緩やかになっていくでしょうし、高値圏で投資してしまう恐れもあります。

そこで、地価動向を計るためにも、取引件数動向に注目すべきです。

上記の通り、取引件数動向DIが上昇に転じた場合には、地価の上昇要因となるため、安心材料となります。

しかし、今後も取引件数動向が低く推移し、取引件数の増加が緩やかであるにもかかわらず、地価が大幅に上昇していったとすれば、地価は取引の実態と乖離して不自然な上昇を続けていることとなります。

特に、今後のDI調査で、取引件数動向DI値がマイナス圏に転落した場合には注意が必要です。

この場合、取引件数の減少によって、地価の下落は必然であるにもかかわらず、地価が上昇を続けていることになります。

その時こそ、地価は天井圏にあるといえます。

地価は経済的合理性を欠いており、過去のバブル崩壊の例と同じく、単に値上がりだけを目的とした、実需とは無関係な、投機的な取引の割合が高まっているのです。

市場は正直です。

不自然に上昇したものには自律修正作用が働き、適正価格へと落ち着きます。

つまり、 不自然に高騰した地価が下落する可能性が高まり、一部識者の見解に違わず、バブル崩壊の様相を呈する危険性も高まります。

そのようなリスクを正しく捉えるためにも、取引件数動向と地価動向の関係には注意を払っておく必要があります。

まとめ

現在、取引件数は緩やかに増加しており、地価も大幅な上昇が続いています。

取引件数が緩やかな増加を続ければ、地価の上昇も徐々に緩やかになっていくと考えられます。

直近の調査結果から、 取引件数が減少に転じるとは考えにくく、今後も地価の上昇は続く可能性が高いでしょう。

したがって、これから不動産投資を始めても、たちまち地価が下落したり、極端な高値掴みになったりする懸念はそれほど大きくありません。

ただし、今後、

  • 取引件数の緩やかな増加に対して、地価が大幅な上昇を続ける
  • 取引件数が減少に転じた後も、地価の上昇が続く

といった不自然な状況に至った場合、地価の下落圧力は高まります。

そのような局面での投資は、高値掴みのリスクも高まるため注意が必要です。

次回の不動産DI調査の発表は、例年通りであれば今年12月です。

ぜひ、確認することをおすすめします。

※本稿の考察は、過去から現在に至るまでの傾向から考察しているため、あくまでも参考に留めてください。

市場では、合理的でない価格に上昇することがあるのと同じように、合理的でない価格へ下落することもあります。

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