日韓関係が悪化しても、沖縄不動産投資の環境が悪化する可能性が低い理由

最近、日韓関係の悪化を報じるニュースが増えています。

これまでも、日韓関係は決して良好とは言えませんでしたが、日本政府が韓国に対して輸出規制を強化したこと、韓国政府が日本に対してGSOMIA(包括的保全協定)を破棄したことなどによって、日韓関係は過去最悪といわれる状況になっています。

日韓関係の悪化は、沖縄経済にも懸念をもたらします。

沖縄経済にとって、観光産業は欠かせないものであり、韓国人観光客の減少が打撃になる可能性があるためです。

もちろん、不動産産業も経済の一部ですから、日韓関係の悪化が沖縄不動産投資に与える影響も気になるところです。

本稿では、日韓関係の悪化が沖縄不動産投資に与える影響を考察します。

日韓関係の悪化と沖縄経済

今年に入ってから、日韓関係は史上最悪とも言われるほどに悪化しています。

日本の韓国に対する輸出規制強化、韓国の日本に対する軍事協定の破棄などによって、日韓関係は悪化の一途をたどっているのです。

これにより、日本を訪れる韓国人観光客が大きく減少しています。

観光庁の発表によると、2019年8月の韓国人観光客は、日本全体で30万8700人となっています。

これは、2018年8月と比較して48%もの大幅な減少です。

これについて観光庁は、日韓関係の悪化により、訪日旅行を控える動きが韓国国内で急速に広がっていることを原因としています。

実際に、韓国の一部の航空会社では、日本への旅客便を減らす動きも出ています。

韓国人観光客の重要性

日韓関係の悪化は、沖縄経済にも大きな懸念をもたらしています。

なぜならば、沖縄県は日本屈指の観光立県であり、沖縄経済は観光産業なしでは成り立たないからです。

日韓関係が悪化することによって、韓国人観光客が減少すれば、沖縄県の経済にも悪影響をもたらすことは間違いありません。

このことは、沖縄県の観光業に関する調査資料を見ても明らかです。

調査資料によれば、沖縄県を訪れる外国人観光客を大別すると、台湾・韓国・香港・中国・タイ・シンガポールに分けられます。

平成30年度データのでは、それぞれの内訳は、以下のようになっています。

国籍 観光客数
空路 海路 合計 シェア
台湾 675,800 241,900 917,700 38.1%
韓国 550,100 550,100 22.8%
香港 196,800 196,800 8.2%
中国 253,000 441,800 694,800 28.8%
タイ 29,200 29,200 1.2%
シンガポール 20,900 20,900 0.9%
合計 1,725,800 683,700 2,409,500 100.0%

この表を見れば、韓国人観光客が沖縄の観光業に与える影響が見えてくるでしょう。外国人観光客の20%以上を韓国人観光客が占めているため、韓国人観光客の減少の程度によっては、観光収入を減少させる可能性があるのです。

このため、沖縄県も韓国人観光客を重点市場第2位に据えており、その重要性がよくわかります。

また、沖縄県観光の満足度に対するアンケートにおいて、韓国人観光客は「大変満足」の割合が上記6か国の中でも最も低くなっています。

満足度の低さはリピート率の低さに直結します。実際に、韓国人観光客の沖縄訪問回数に関する調査では、「2回以上」との回答が14.6%、「初めて」との回答が85.4%となっており、韓国人観光客によってもたらされる観光収入の大部分が「初回訪問」の観光客によるものと言えます。

日韓関係の悪化が沖縄観光業に与える影響を測るならば、初回訪問の層が厚いことを見逃せません。

日本に対して悪いイメージを抱き、沖縄を観光先に選ばない韓国人が増えれば、これまでリピート率の低さを補ってきた初回訪問の韓国人観光客が激減し、観光産業への影響も大きくなる可能性が高いのです。

さらに、沖縄観光に訪れる時期を考えても、韓国人観光客の影響は大きいです。

上記6か国のうち、台湾・香港・中国の3か国では、冬季よりも夏季に沖縄を観光する傾向が強いです。

これに対し、韓国・タイ・シンガポールでは、夏季よりも冬季に沖縄を観光する傾向が強いのです。

日本国内の観光客も、沖縄観光といえば夏季を選ぶ人が多いです。

そして、外国人観光客の4分の3を占める台湾・香港・中国も夏季を選ぶ人が多いです。

冬季に観光する割合が高い韓国・タイ・シンガポールのうち、タイとシンガポールが占める割合は小さいため、冬季の沖縄観光業にとって、韓国人観光客は極めて重要な存在と言えます。

もし、韓国人観光客が大幅に減少すれば、沖縄の冬季の観光業に大きな打撃となる可能性があります。

韓国人観光客が激減

では、実際のところ、韓国人観光客数はどうなっているのでしょうか。

今年9月17日に、沖縄県は平成30年度観光統計実態調査を公表しています。

これは、あくまでも平成30年度の調査結果であり、今年度以降の日韓関係悪化の影響は盛り込まれていません。

しかしながら、この調査結果をもとに、日韓関係悪化の影響を推測することは可能です。

平成30年度の調査結果において、台湾・韓国・香港・中国・タイ・シンガポールからの観光客数と観光収入の前年度比は以下のようになっています。

  • 台湾・・・入域観光客数:917,700人(前年度比18.1%増加)、観光収入:625億円(1人当たり観光消費額:68,080円)
  • 韓国・・・入域観光客数:550,100人(前年度比1.2%増加)、観光収入:391億円(1人当たり観光消費額:70,990円)
  • 香港・・・入域観光客数:196,800人(前年度比9.1%減少)、観光収入:222億円(1人当たり観光消費額:112,789円)
  • 中国・・・入域観光客数:694,800人(前年度比2.6%増加)、観光収入:511億円(1人当たり観光消費額:73,513円)
  • タイ・・・入域観光客数:29,200人(前年度比2.5%増加)、観光収入:データなし
  • シンガポール・・・入域観光客数:20,900人(前年度比53.7%増加)、観光収入:データなし

増加しているもののうち、シェアの低いタイとシンガポールの影響は軽微です。

香港からの観光客は、台風の影響を受けたことにより、9.1%の減少となっています。

香港のシェアは8.2%ですが、1人当たりの観光消費額が大きいため、9.1%の減少は痛手です。

しかしながら、シェアの高い台湾・韓国・中国の増加によって十分に補うことができ、全体では観光業のプラス成長に寄与したといえます。

【シミュレーション①】

では、今年度はどうでしょうか。シミュレーションしてみたいと思います。

今年度の観光業に影響すると考えられるのは、日韓関係悪化による韓国人観光客の減少と、香港の政情不安による香港人観光客の減少です。

仮に、台湾・香港・中国の入域観光客数が前年同様の増減率を示し、1人当たり観光消費額も同じであった場合、

  • 台湾・・・入域観光客数:1,083,803人、観光収入:738億円
  • 香港・・・入域観光客数:178,891人、観光収入:202億円
  • 中国・・・入域観光客数:712,865人、観光収入:524億円

となり、この3か国合計での観光収入は、前年度比で106億円の増収となります。

今年度、日韓関係悪化によって韓国人観光客が減少し、外国人観光客全体での観光収入がマイナスに転落するためには、韓国人観光客による観光収入が107億円以上の減収になる必要があります。

すなわち、 韓国人観光客の1人当たり観光消費額が同じであれば、前年度より約15万人の減少の約40万人(約27%の減少)となったとき、外国人観光客全体での観光収入はマイナスに転落するのです。

沖縄県が今年10月25日に発表したところによれば、今年9月の韓国人観光客は79%と大幅な減少となり、外国人観光客全体でも5%の減少となっています。

この流れが続くならば、韓国人観光客の減少が観光収入を下押しし、減収につながる可能性も十分に考えられます。

沖縄不動産投資への影響も

韓国人観光客の減少による観光業への影響は、沖縄不動産投資に取り組む人にとっても無視できないことです。

不動産産業も経済の一部である以上、沖縄経済への悪影響が沖縄不動産投資にも波及することは十分に考えられます。

具体的には、以下のような悪影響が考えられます。

地価の下落

近年、沖縄の不動産市場は非常に好調であり、地価や賃料は順調に上昇してきました。

人口の増加が続く沖縄では、住宅の需要が旺盛であり、地価の上昇要因となっています。

しかし、近年の活況は観光業の盛り上がりに支えられている部分もかなり大きいです。

リゾート開発が活発になったことで、商業地の地価が大幅に上昇し、これが住宅地や工業地などを含む全用途での地価の上昇を牽引してきました。

観光業が好調であることによって地価が上昇することは、一面において沖縄の優位性と言えるのですが、また一面においては脆弱性でもあります。

観光業が低調になれば、地価も下落する恐れがあるのです。

賃貸経営に取り組むならば、賃貸物件は土地と建物を合わせた価格で取引されるのですから、地価が上昇すれば物件の取得価格は高くなり、地価が下落すれば物件の売却価格は低くなり、利回りを圧迫します。

また、不動産投資の大きな利点は、融資によって投資を加速できることです。

融資を受けるにあたり、所有する不動産を担保に入れることも多いですが、地価が下落すれば担保評価額も下がり、融資によるレバレッジも利きにくくなります。

県民所得減少や消費の低下

沖縄の経済は、サービス業の割合が突出して高く、観光業が非常に重要です。

観光業が打撃を受けた場合、観光業で働く県民の失業率が高まり、県民所得は減少し、消費意欲も低下する可能性があります。

消費意欲が低下すれば、所得から支払える賃料も低くなります。

当然、付加価値戦略による賃料の上昇も難しくなり、空室を埋めるために賃料を下げる必要も生じるかもしれません。

不動産投資の主な収益源は賃料収入です。

日韓関係の悪化が賃料設定にまで及んだ場合、利回りを圧迫する可能性が高いです。

現状では問題なし

以上のことから、沖縄不動産投資に取り組む人は、韓国人観光客が沖縄の観光業と経済に与える影響、延いては沖縄の不動産市場に与える影響を知り、適切に対処すべきです。

もし、日韓関係悪化が沖縄経済に与える悪影響が今後も高まるようであれば、沖縄不動産投資のリスクも高まるでしょう。

もっとも、現時点では、日韓関係悪化の影響は軽微であり、沖縄不動産市場への目立った影響も見られません。

日銀の発表では問題なし

日銀の最新の発表をみると、沖縄の景況感は悪化していません。

2019年10月2日付の日経新聞では、

日銀那覇支店が1日発表した9月の沖縄県内の短観は全産業の業況判断指数(DI)がプラス32で、前回6月調査と比べて横ばいだった。
観光が好調で、2四半期連続で横ばいを維持した。プラスは30四半期連続、DIが30を超えるのは18四半期連続で、ともに過去最長を更新した。

と報じられています。

業界判断指数がプラス圏を維持していることから、沖縄県の経済は好調を維持していることが分かります。

沖縄県の主要産業は観光業なのですから、この結果は観光業が好調であることも意味しています。

特に、観光業は18期連続でDIが30以上を維持していることから、沖縄観光業は長期的な好サイクルにあると言えるでしょう。

日韓関係の悪化を、この好景気に水を差す悪材料とみなす意見もあります。

しかし、今年7月に日韓関係の悪化が顕著となった後も観光業が好調であることから、目立った悪影響はないことが分かります。

先行きの懸念も軽微

なお、日銀の発表では先行きに懸念を示しており、海外景気の不透明感を理由として、景況感の先行きはプラス27と5ポイント低下を見込んでいるとしています。

とはいえ、これも大きな問題になるとは考えにくいです。

日銀の読み通り、景況感がいくらか低下したとしても、依然としてプラス圏にある以上、沖縄の経済成長がマイナスになることはありません。

また、プラス27ポイントであればマイナス圏転落までの余地はかなり大きく、マイナスのサイクルに入るまでには時間を要するでしょう。

いくら日韓関係が悪化しているとはいえ、長期間にわたって韓国人観光客が減少し続ける可能性は低いです。

現在、日韓関係が本当に過去最悪の状態であれば、これ以上悪くなる可能性よりも、いくらか改善される可能性のほうが高く、韓国人観光客減少の影響も次第に緩和されていくと考えるのが自然です。

万が一、日韓関係が悪化の一途をたどり、韓国人観光客減少の影響が長期化したとしても、深刻な状況にはならないでしょう。

観光業に力を入れている沖縄県が、何の対処もせずに観光業の後退を甘受するとは考えにくいです。

本当に怖いのは世界経済の後退局面

上記のように、日韓関係悪化が沖縄経済に与える影響はさほど深刻ではなく、沖縄不動産投資にも大きなリスクにはならないでしょう。

シミュレーション①で、韓国人観光客の減少が今年度の観光収入の減少を招く可能性を示しましたが、

同様のシミュレーションを来年度、再来年度と進めていくと、韓国人観光客の影響は問題にならなくなってきます。

台湾・香港・中国の入域観光客の増減率と、1人当たり観光消費額が平成30年度と同じであれば、来年度は

  • 台湾・・・入域観光客数:1,279,971人、観光収入:872億円
  • 香港・・・入域観光客数:161,181人、観光収入:182億円
  • 中国・・・入域観光客数:731,399人、観光収入:538億円

となり、この3か国合計での観光収入は、前年度比で128億円の増収となります。

今年度、韓国人観光客が27%減少の40万人、観光収入が107億円減収の284億円であれば、

外国人観光客全体での観光収入が今年度・来年度で2年連続減収となるためには、韓国人観光客だけで129億円の減収の155億円となる必要があります。

このとき、韓国人観光客数は218,340人に減少しています。

再来年も同様にシミュレーションすれば、台湾・香港・中国の3か国合算で155億円の増収となります。

したがって、再来年には韓国人観光客がゼロになっても観光収入はマイナスにはならず、日韓関係悪化による影響は解消されます。

沖縄経済にとって本当に脅威となるのは、日韓関係の悪化ではなく、世界的な経済の後退です。世界的に景気が悪化すれば、国家間の問題の有無とは関係なく観光消費は大幅に縮小し、観光業に大打撃となります。

そのような局面では、リゾート開発なども行なわれなくなり、地価が下落するでしょう。

賃料の下落も起きやすくなり、賃貸経営の収支を悪化させるはずです。

まとめ

日韓関係の悪化によって、沖縄経済が悪化し、地価の下落を招くとする意見もあります。

しかし、沖縄経済への影響を深く考えてみると、日韓関係悪化という単一の悪材料だけで、沖縄の不動産投資環境が大きく左右されるとは考えにくいです。

もちろん、世界的な景気の悪化など、複数の悪材料が複雑に絡み合えば、沖縄不動産投資も難しくなるでしょう。

しかし、そのような局面では、沖縄不動産投資だけではなく、全国的な不動産投資でも、国内外の株式投資でも投資環境は悪くなるのですから、沖縄不動産投資だけを切り取って、危機感を抱くのは誤りです。

投資で成果を得るためには、リスクとリターンを正しく見積もることが欠かせません。

様々な情報から、多角度的に判断することを心掛けましょう。

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