沖縄振興開発金融公庫の利用が沖縄不動産投資に向かない理由
近年、アパートローンの審査が厳しくなっており、利用のために求められる年収や金融資産、不動産投資の経験などのハードルが高くなっています。
特に、これから沖縄不動産投資を始める未経験者には厳しい環境です。
そこで検討してみたいのが、沖縄県の政府系金融機関である 沖縄振興開発金融公庫です。
民間金融機関とは異なる目的で運営されていることから、アパートローンで借りられない人でも、 沖縄振興開発金融公庫では借りられる可能性があるのです。
しかし、 沖縄振興開発金融公庫の利用は現実的ではありません。本稿では、その理由について解説していきます。
目次
政府系金融機関とは?
2017年以降、特にスルガ問題が起こった2018年以降、アパートローンの審査が厳しくなっています。
求められる属性も高くなり、民間の金融機関を利用したくてもできない人が増えています。
属性に問題がある人は、民間の金融機関から融資を受けられる属性を作るために、年収を増やしたり、区分不動産を現金で購入して経験を積んだり、なにかと寄り道を強いられることになります。
そのような属性の人でも、不動産投資(実際の名目は不動産賃貸事業のための事業資金)に取り組むために利用できる唯一の金融機関は、政府系金融機関です。
政府系金融機関は、民間の金融機関が対応できない部分を補完することを目的としており、民間の金融機関では融資を受けられない人でも、政府系金融機関から融資を受けられる可能性があります。
例えば、起業の際の創業資金は、民間の金融機関で借りられる可能性はほとんどありませんが、政府系金融機関ならば積極的に融資を検討してくれます。
それと同じように、民間の金融機関でアパートローンを利用できない人でも、政府系金融機関ならば融資を受けられる可能性があるのです。
政府系金融機関でも、不動産投資への融資を引き締めつつありますが、それでも「民間の金融機関で対応できないところを補完する」という目的は変わっていません。
融資情勢が厳しくなったからこそ、政府系金融機関の利用価値が高まっていると言えます。
沖縄振興開発金融公庫について
政府系金融機関といえば、個人や法人に様々な貸し付けを行う「日本政策金融公庫」のイメージが強いと思います。
しかし、日本政策金融公庫は沖縄を除く46都道府県に支店を構えており、 沖縄県には日本政策金融公庫の支店がありません。
沖縄県で営業している政府系金融機関は、沖縄振興開発金融公庫です。
沖縄振興開発金融公庫も、日本政策金融公庫に統合される予定なのですが、今のところ統合には至っていません。
しかし、基本的には日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫の役割は同じであり、不動産投資に利用する際の条件などもほぼ同じです。
沖縄振興開発金融公庫のメリット
沖縄振興開発金融公庫を利用するメリットは、上記の通り、属性によって民間の金融機関では融資を受けられない人でも、政府系金融機関ゆえに融資を受けられる可能性があることです。
そのほか、以下のようなメリットがあります。
非営利目的のため、金利が低い
民間の金融機関は営利目的であり、利益を得るために金利を設定しているのに対し、沖縄振興開発金融公庫は非営利目的であり、利益を前提としていません。
このため、低めの金利(1~2%程度)で借りることができます。
収益性を重視してくれる
沖縄振興開発金融公庫は営利目的ではないことから、民間の金融機関と異なる方法で審査していきます。
民間の金融機関では、融資対象となる物件の収益性だけではなく、資産価値も重視します。資産価値が高い物件であれば、万が一返済困難になった場合でも、その物件を処分することで回収でき、保全とすることができるからです。
民間の金融機関は、預金者が預けたお金を融資の原資としているため、預金を守るためにも、貸し倒れリスクに非常に敏感です。
しかし、沖縄振興開発金融公庫では、資産価値よりも収益性を重視します。
融資の原資が税金ですから、税金をしっかり活用するために審査するのは当然ですが、 融資した税金を守り抜くよりも、積極的な融資によって経済を活性化することのほうが重要です。
このため、資産価値に問題があり、民間金融機関では融資を受けられない物件でも、収益性さえ高ければ、沖縄振興開発金融公庫で融資を受けられる可能性があります。
特に、法定耐用年数を超えた物件に対し、民間金融機関ではアパートローンを出さないのが普通ですが、 沖縄振興開発金融公庫ならば耐用年数だけを理由に融資を拒否するようなことはありません。
新規の人でも借りられる
民間金融機関は、上記のように貸し倒れリスクを非常に嫌います。
このため、新規に融資を申し込んできた人、つまり借入れと返済の実績がなく、金融機関からの信用もない人に対しては、融資を渋ることが多いです。
しかし、沖縄振興開発金融公庫であれば、このような新規の人でも融資を受けられる可能性があります。
沖縄振興開発金融公庫の融資条件
では、沖縄振興開発金融公庫の融資条件を見てみましょう。
これから沖縄不動産投資を始める人のうち、不動産投資の経験が全くない人は、「新規開業支援資金」という制度によって借り入れることとなります。
不動産賃貸事業を新規に開業するという立場で、融資を受けるのです。
もし、これまでも不動産投資の経験があり、これから沖縄不動産投資に挑戦する人であれば、すでに不動産賃貸事業を営んでいる立場になります。そのため、「基本資金貸付」を利用します。
それぞれの融資条件は、以下のようになっています。
【新規開業支援資金】
- 融資上限:4800万円
- 融資期間:20年以内(実際には10~15年以内がほとんど)金利:1~2%程度
【基本資金貸付】
- 融資上限:4800万円
- 融資期間:原則10年以内
- 金利:1~2%程度
なお、上記の「融資上限」とは、必ず4800万円まで借りられるという意味ではなく、非常に条件の良い人でも4800万円が上限になるという意味です。
案件ごとに、数百万円しか借りられない場合もあれば、4800万円の満額融資を受けられる場合もあります。
土地を持っている場合
沖縄振興開発金融公庫には、日本政策金融公庫には見られない「住宅資金貸付」も行っています。これは、賃貸住宅の建築費用を借りられる制度であり、やや好条件での借入れが可能です。
建築する物件の規模によって貸付条件は異なり、
【3階以上の賃貸物件】
- 融資上限:建築費と間接工事費の80%まで
- 返済期間:20年以内(建物全部が賃貸住宅の場合には30年以内)
【3階に満たない賃貸住宅】
- 融資上限:建築費・間接工事費の99.45%まで
- 返済期間:35年以内
となっています。融資限度額が建築費用を基準としている、返済期間が長めになっているなど、一般的な融資制度よりも好条件となっています。
しかし、住宅資金貸付を利用するためには、 沖縄県内に土地を所有していることが条件となっていることから、多くの人には利用しにくいものとなっています。
また、土地を購入してからこの融資制度を利用するとしても、そもそも沖縄では地価や建築コストが非常に高いことから、新築物件への投資そのものがおすすめできません。
デメリットは「融資期間が短い」こと
沖縄振興開発金融公庫では、投資する人の属性がそれほど求められず、物件の資産価値よりも収益性を重視してくれます。
しかし、上記の融資条件でも成り立つだけの十分な収益性を確保するのは、決して簡単なことではありません。
新規開業支援資金ならば10~15年、基本資金貸付ならば10年という融資期間になるため、 毎月のローン返済額も大きくなり、キャッシュフローの確保が難しいのです。
特に沖縄不動産投資では、県民所得の低さから家賃設定が低くなること、地価や物件価格の値上がりが続いていることなどによって、利回りが低めになってしまいます。
このため、 低い利回りでもキャッシュフローを確保していくためには、長期返済がカギになってきます。
長期の返済が認められず、十分な収益性をアピールすることができないため、沖縄不動産投資で沖縄振興開発金融公庫を利用することは、あまり現実的ではありません。
融資期間が短いと不動産投資が成り立たない
融資期間が短いことによって不動産投資が成り立たないことを、具体的なシミュレーションによって見てみましょう。ここでは、以下のような条件を設定します。
- 物件価格:5000万円
- 融資総額:4500万円(自己資金1割・500万円)
- 借入金利:1.5%
- 表面利回り:7%(年間賃料収入350万円)
- 経費率:20%
融資期間10年の場合
融資期間が10年の場合、以下のようなシミュレーションとなります。
家賃収入 | 経費 | (経費率) | 収支 | ローン返済 | 税引前CF |
3,500,000 | 700,000 | 20.00% | 2,800,000 | 4,879,538 | -2,079,538 |
この表のように、満室経営をしたところで、1年目から200万円以上の赤字になってしまうことが分かります。
このような収支計画では、融資を受けられる可能性は万に一つもないでしょう。
融資期間10年で黒字を維持するためには、表面利回り12.2%を確保する必要があります。
そのような物件は、沖縄県ではかなりの高利回りであり、購入する機会はおそらくありません。
融資期間15年の場合
融資期間が15年の場合には、以下のようなシミュレーションとなります。
家賃収入 | 経費 | (経費率) | 収支 | ローン返済 | 税引前CF |
3,500,000 | 700,000 | 20.00% | 2,800,000 | 3,372,496 | -572,496 |
融資期間が15年に伸びたとしても、1年目から57万円の赤字になります。
融資期間10年の場合に比べるとかなりマシですが、それでも融資を受けられるような収支計画ではありません。
融資期間15年で黒字になるためには、表面利回り8.5%を確保する必要があります。
表面利回り8.5%であれば、かなり現実的な数値だと言えますが、やはり近年の沖縄ではなかなかお目にかかれない利回りと言えます。
民間金融機関なら?
民間金融機関ならば、法定耐用年数による制限はあるものの、25年や30年といった長期融資も可能です。
長期にわたって返済すれば、毎回のローン返済額は小さくなり、キャッシュフローの確保も比較的容易です。
上記の物件を、民間金融機関のアパートローンによって購入した場合、以下のようなシミュレーションとなります(融資総額3500万円[頭金3割・1500万円]、融資期間25年、金利2.0%の条件)。
家賃収入 | 経費 | (経費率) | 収支 | ローン返済 | 税引前CF |
3,500,000 | 700,000 | 20.00% | 2,800,000 | 1,792,715 | 1,007,285 |
アパートローンを利用するためには、頭金を多く求められるため、利用するためのハードルは高くなります。
しかし、それによって融資総額を抑えることができ、融資期間が長くなることによって、キャッシュフローの確保が容易になります。
まとめ
沖縄振興開発金融公庫などの政府系金融機関は、民間金融機関で融資を受けられない人にも融資しています。
アパートローンの利用が難しくなった今、利用価値は高まっています。
しかし、融資期間が短いことから、キャッシュフローの確保が難しく、利回りが低めになる沖縄不動産投資との相性は悪いです。
赤字になれば、本業の給与などから赤字をカバーしなければなりません。
それが何十年も続くのですから、途中で破綻してしまう可能性も高く、危険極まりないと言えます。
よほど収益性の高い不動産を見つけた場合を除いて、沖縄不動産投資では政府系金融機関を利用する機会はないと考えてよいでしょう。