軍用地投資は相続税対策に効果大。相続法改正の影響もしっかり考えよう!
軍用地投資の大きな魅力は、何といってもリターンが安定していることです。
ただし、期待できる利回りはそれほど高くありませんし、リターンを確保するために長期間を要します。
このため、投資期間を長く確保できる若い人に比べて、中高年の人には魅力的に見えないかもしれません。
しかし、中高年の人にも、軍用地投資は十分に魅力的です。
なぜならば、 軍用地投資は相続税対策の効果が非常に大きいためです。
ところが、今年7月の相続法改正によって、新たに注意点すべき点も出てきました。
本稿で、改正に伴う注意点について解説していきましょう。
目次
軍用地投資の節税効果
軍用地投資は、ローリスク・ミドルリターンの投資であり、この点だけでも他の投資にはない魅力があります。
このほかに注目されているのは、軍用地投資が相続税対策に役立つ点です。
相続税対策に役立つ様々なアプローチと比較しても、軍用地投資の節税効果は際立っています。
これが、主に富裕層を中心として、軍用地投資の人気が高まっている理由と言えます。
※軍用地投資の節税効果について、詳しくはこちら
→一般の不動産投資vs軍用地投資。相続税対策に効果的なのはどっち?
参考記事を読んでいただければ、軍用地投資がいかに相続税対策に役立つかが分かるでしょう。
しかし、それは確かであるとしても、相続税対策に活用していく以上、相続法の改正によって受ける影響については、しっかりと考えていく必要があります。
改正の内容によっては、軍用地投資のメリットが損なわれることもありますし、逆にメリットが増大することもあります。
2015年1月の改正は、軍用地投資のメリットを大きく高めることとなりました。
基礎控除が縮小されたことにより、 相続税評価額の圧縮に役立つ軍用地の優位性が高まったのです。
しかし、2019年7月の改正では、軍用地投資のメリットを大きく損なう内容ではなかったものの、 場合によってはマイナスにつながる内容でした。
しっかりと考えて対策しなければ、 相続税対策のために軍用地に投資していても、結果的に思わぬ税金が発生したり、相続人の軍用地の運用に支障をきたす可能性があるのです。
2019年7月の改正の内容
2019年7月に改正された相続税法の最大のポイントは、相続規定の変更です。
相続の際の税金の取り扱いに、いくつかの変更がなされています。
改正の目的は、相続トラブルの回避です。
相続の際には、遺言が相続トラブルの原因になることがあります。
法的には相続人として権利を持っている人でも、遺言によって相続を受けられなかったり、相続権を主張することで対立が生まれたりすることがあったのです。
遺留分とは?
そこで、相続法では遺留分、すなわち配偶者や子供などの法定相続人に補償される、最低限の取り分について規定しており、配偶者は1/4、子は1/8の遺留分が認められるといった仕組みになっています。
遺留分の定めについて知っていれば、たとえ遺言で「遺産は全て妻に相続させる」などと書かれていても、相続人は相続の権利を主張することができます。
従来の相続法でも、遺留分についての定めはありました。
相続される遺産が遺留分に満たない場合には、本来の取り分を主張し、他の相続人に請求できたのです。
従来の相続法では、 遺留分を補償する方法に明確な定めがありませんでした。
現金で解決できるのはもちろんですが、請求された相続人に現金がなければ、現金以外の資産を分割して譲渡したり、共有にすることで対処することもできました。
例えば、父が8000万円の遺産を遺しており、法定相続人が配偶者・長男・次男であれば、本来の遺留分は母が1/4の2000万円、長男が1/8の1000万円、次男が1/8の1000万円となります。
この時、父の遺言の内容に、
- 配偶者には自宅の土地と建物で6000万円
- 長男には自宅以外の土地で1500万円
- 次男には現金で500万円
と指定されていたとします。
この場合、次男は遺留分に500万円満たないため、母や兄に不足分を請求することができます。
母と長男が相続したのは不動産であり、遺留分をまかなうだけの現金がありません。
従来であれば、相続した不動産のうち、500万円相当を次男の共有持分にすることで、遺留分を満たすことができました。
実際に売却したわけではないため、譲渡所得なども考慮する必要はありませんでした。
遺留分の扱いが大きく変わる
今年7月の改正によって、遺留分の扱いが大きく変わりました。
上記のように、従来の相続法では、不動産などを共有にすることで遺留分の請求に対応することができました。
必ずしも、 現金で対応する必要はなかったのです。
しかし、改正の結果 、遺留分の補償は現金での支払いに一本化されることとなりました。
この改正は、遺留分の請求に対し、現金のみで対応することによって、相続トラブルを減らすことを目的としているのですが、実際には新たなトラブルを生み出しています。
上記のケースでは、次男は遺留分の不足を求めるにあたり、改正相続法に基づいて、母と長男に現金500万円を支払うように請求します。
とはいえ、いくら相続法で定められていても、 現金が手元になければ請求に応じることはできません。
このため、結局は不動産などによる代物弁済を図るほかなく、代物弁済では相続した土地のうち、500万円分を次男名義にし、共有することになります。
ここで、「遺留分を現金で求めるよう定める法律」と、「遺留分の請求に現金で応じられないため、代物弁済せざるを得ない被請求人」の間でギャップが起こります。
これは、現実問題として仕方のないことであり、法的に代物弁済を一切認めないというわけにはいきません。
そこで、改正相続法では、
「代物弁済等の方法によって、遺留分の請求に応じることは認める。しかし、遺留分を満たすために遺産を共有する場合にも、現金によって相続トラブルが解決されたものとみなす。したがって、遺留分の請求に応じるために資産を売却していなくとも、売却した現金で請求に応じたものとみなす」
という理屈で考えるようになりました。
このため、従来と同じように遺産の共有によって遺留分の請求に応じたとしても、共有した遺産の相続人は、それを売ったものとみなされ、売却によって利益が得られたと考えられる場合には、 譲渡所得などが課せられるようになったのです。
改正の影響の具体例
改正によって、軍用地の相続がどのような影響を受けるか、相続税額の観点から具体的に考えてみましょう。
ここでは、父が8000万円の遺産を遺しており、法定相続人が配偶者・長男・次男の場合を考えます。
本来の遺留分では、母が1/4の2000万円、長男が1/8の1000万円、次男が1/8の1000万円の相続権を有していますが、父の遺言には、
- 配偶者には自宅の土地と建物で6000万円
- 長男には軍用地で1500万円
- 次男には現金で500万円
とする配分が指定されていました。
当然、次男は遺留分に満たない500万円を、母や兄に現金で請求することができます。
しかし、母と長男が相続したのは土地や家屋といった不動産であり、500万円の請求に現金で応じることができません。
そこで、 長男は自身の遺留分1000万円から超過した500万円を次男に譲り、請求に応じることとしました。
この時、1500万円相当の軍用地を、
- 500万円相当の軍用地を分筆し、売却し、現金で支払う
- 500万円相当の軍用地を分筆して、次男に譲渡する
- 500万円相当の軍用地を次男名義にする
といった方法が考えられます。
1の場合、売却しているのですから、地価の上昇によって利益が得られているならば、利益に対して譲渡所得が課せられます。
課せられるのは、売却によって得た現金を受け取る次男ではなく、相続した土地を売却した長男です。
分筆の後に売却するよりも、共有を選ぶ人も多いはずです。
相続税の納税期限は、被相続人が死亡してから10ヶ月以内となっており、相続トラブルの解決に費やせる時間は限られています。
軍用地はスピーディに売れることが多いですが、 分筆・売却する手間を嫌い、共有名義にして解決を図る人も多いのです。
そこで2、3の方法で解決する人が多いのですが、この場合には、実際に軍用地を売却しているわけではありません。
しかし改正相続法では、売却して現金で支払ったものとみなし、やはり長男に譲渡所得が課せられます。
このため、長男の相続した1500万円の軍用地が、父の取得時に900万円であったとすれば、次男の遺留分を補填する500万円のうち200万円が利益とみなされ、譲渡所得が課せられます。
不動産の売買における譲渡所得の税率は、不動産の所有期間が5年超の場合には長期譲渡所得、不動産の所有期間が5年以下の場合には短期譲渡所得とみなされ、税率が大きく異なります。
例えば、この軍用地を令和元年中に譲渡したならば、軍用地の取得が平成25年12月31日以前であれば長期譲渡所得、平成26年1月1日以後であれば短期譲渡所得とみなします。
日本の相続税法では、「所有期間」を被相続人(ここでは父)の購入開始時点から起算します。
したがって、長男が次男の請求に応じて、軍用地を売却あるいは共有した時、父の購入時から5年超が経過していれば税率は39.63%(所得税30.63%、住民税9%)、5年以下であれば税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)となります。
ここでは、相続トラブル解決のために500万円相当の軍用地を次男名義として共有し、200万円の利益に課税されるため、
- 軍用地の所有期間が5年超の場合:200万円×20.315%=40万6300円
- 軍用地の所有期間が5年以下の場合:200万円×39.63%=79万2600円
の譲渡所得税を、長男が支払う必要があります。
その他にもデメリットは色々
上記では、実際は共有名義にしただけであり、軍用地を売却したわけではありませんから、長男は売却益を得ていないにもかかわらず、売却益に応じた譲渡所得を現金で支払う必要があります。
この支払いが苦しければ、相続が遺族に思わぬ苦痛を与える可能性もあります。
相続の際には、相続税をいかに少なくするかを考えていくべきですし、そのために軍用地投資が役立ちます。
しかし、その結果、 本来払う必要のない税金が加算されてしまうならば本末転倒です。
また、遺留分を巡る問題によって、譲渡所得などの支払いの他にも、いくつかのデメリットが生じる可能性があります。
それは、共有名義とすることによって、
- 軍用地の運用に円滑さを欠く
- 軍用地の担保評価が下がる
- 軍用地の売値が下がる
といったデメリットです。
軍用地の運用に円滑さを欠く
まず、この軍用地を長男が単独で相続するのではなく、次男との共有名義とすることによって、軍用地のメリットである「運用の円滑さ」を欠くことになります。
軍用地のメリットの一つに、流動性の高さが挙げられます。
リスクの低さに対するリターンの高さ、節税効果などによって、軍用地は投資対象として非常に人気があります。
また、軍用地の絶対数は限られており、売りたいと思う人は少なく、買いたいと思う人は多いことから、売りに出せば短時間のうちに購入希望者が殺到します。
したがって 、 一般の不動産とは異なり、売りたいときにスピーディに売れることが、軍用地のメリットの一つになっているのです。
しかし、共有名義の軍用地はこれに当てはまりません。
軍用地に限らず、共有名義の物件を売却するためには、たとえそれが自分名義の部分であっても、共有者全員の同意がなければ売ることができないのです。
長男と次男で共有すれば、長男が売りたいと考えても、 次男が同意しなければ売ることはできません。
そして、長男が売りたいと考えて同意を求めるとき、次男がこれを渋ることは十分に考えられます。
次男としては、いずれ自分が売却を考えるとき、長男であれば同意を得やすいですが、長男から赤の他人であるAさんへと名義が移った場合、同意を得るハードルが高くなってしまいます。
もちろん、長男からAさんに、AさんからBさんに、Bさんの分筆によってCさんとDさんに・・・といったように 共有者が複雑化すればするほど、売却が困難になってしまいます。
だからこそ、長男から同意を求められた際に次男が渋ることは十分に考えられますし、それに同意した次男が、その後の運用で困難に直面する可能性も高いです。
このように、運用上の困難を招いてしまうことは、共有名義の大きなデメリットと言えます。
軍用地の担保評価が下がる
売却とは異なり、自分の持ち分に担保設定する際、法的には共有者全員の同意を得る必要はありません。
しかし、運用が難しい軍用地を、買いたいと思う人はあまりいません。
少なくとも、単独名義の軍用地に比べると、人気は大きく下がります。
このため、軍用地を担保として金融機関から融資を受けたいと考えたとき、金融機関は共有物件であるという理由によって、担保評価を低く見積もります。
通常、単独名義の7割程度の担保評価がなされます。
特に、 共有名義かつ返還予定の軍用地であれば、 単独名義の軍用地の半分程度の担保評価になることがあります。
返還予定の軍用地は、所有者が返還後に売却を検討する可能性が高いです。
しかし、売却には共有者全員の同意を得る必要があります。
この時、同意を得られずに資金化できない可能性もあるため、軍用地本来のメリットが損なわれていることを考慮して、担保評価が低くなるのです。
軍用地のメリットは、流動性の他にも、担保価値の高さが挙げられます。
借地料によって安定した収益が得られ、これを返済原資として期待できることから、金融機関は軍用地の担保価値を高く評価するのです。
担保価値が高ければ、軍用地を担保として借りられる金額も大きく、より少ない手元資金で融資を受けることができます。
軍用地を担保とする軍用地主ローンを活用すれば、条件の良い軍用地が売りに出されたとき、軍用地を担保にしてスムーズに融資を受け、投資規模を拡大していくこともできます。
遺留分の補填のために共有物件にすれば、軍用地を担保に融資を受け、 資産形成を加速することも難しくなるのです。
軍用地の売値が下がる
最後に、単独名義の軍用地に比べて、共有名義の軍用地は売値が下がります。
共有名義の軍用地は、運用の円滑さを欠くことから、積極的に買いたいと思う人は少ないです。
また、担保評価が低ければ、多くの自己資金が必要になることから、購入のためのハードルが上がってしまいます。
このため、共有名義の軍用地を市場価格相当で売ることはまず不可能であり、 単独名義の物件よりも低い価格でなければ売れない可能性が高いです。
軍用地の売値は、「年間の借地料×相場の倍率(対象となる軍用地の競争率)」で計算されますが、共有名義の軍用地は単独名義の軍用地に比べ、相場の倍率が1~2倍低くなります。
売却によって得られるキャピタルゲインが目減りしてしまうことは、あらゆる投資で大きなデメリットと言えます。
遺留分の争いが起きない遺言を
譲渡所得税の発生や、共有名義とすることによるデメリットを避けるためにも、相続税対策として軍用地に投資する人は、遺留分の争いが起きない遺言を遺しておくことが大切です。
本稿の例であれば、長男に1500万円の軍用地を相続させるのではなく、あらかじめ1000万円分の軍用地と500万円の軍用地に分筆しておき、長男には1000万円の軍用地を、次男には500万円分の軍用地と500万円の現金を相続させるのが良いでしょう。
そうすれば、長男・次男ともに遺留分を相続することができ、トラブルは起こりません。
相続後に、売却や共有といった手続きによって譲渡所得税を課せられることもありません。
また、長男は1000万円の軍用地、次男は500万円の軍用地を単独名義で所有するため、自由に売却することができますし、担保評価でも、売値でも低く見積もられることはなくなります。
軍用地の大きなメリットである「相続税への対策メリット」を十分に活かすならば、単に軍用地を購入するだけでは不十分です。
それに加えて、自身の相続を考慮し、遺留分を原因とするトラブルが起きないように配慮した遺言を遺すことが大切なのです。
まとめ
今年7月の相続法改正は、2015年の改正に比べると、それほど大きな改正には思えなかった人もいると思います。
しかし、軍用地の相続を考えるとき、現金以外の遺産であることから、遺留分をめぐるトラブルが起こり、相続人が思わぬデメリットに見舞われる可能性があります。
政府の財政状況を考えると、今後も税法は様々に改正されていくと思います。
特に相続税法の改正が実施された場合には、軍用地投資の計画にどのような影響があるかをしっかり考えていくことが重要です。