軍用地主と国との契約更新時、借地料は大幅に上昇する可能性。次は2032年
軍用地に支払われる毎年の借地料は、軍用地主と政府の交渉によって決められています。
その結果、借地料は毎年安定して増額を続けてきました。
毎年の増額もさることながら、 大幅な増額が期待できるのは、軍用地主と政府が賃貸借契約を更新するタイミングです。
20年に一度のこのタイミングでは、軍用地主は契約更新を交渉カードとして、借地料の大幅な増額を求めることができます。
本稿では、軍用地の賃貸借契約の更新の仕組みと増額への期待、次回の更新の見通しなどを解説していきます。
目次
軍用地投資の魅力とは
軍用地投資の最大の特徴かつ最大の魅力は何かといえば、ローリスクでありながらミドルリターンが期待できることです。
軍用地に投資すれば、軍用地を日本政府が借り上げることにより、借地料を受け取ることができます。
借り手が日本政府であり、国防の観点からも軍用地の利用は必須であることから、借地料が滞納される心配がほぼないローリスクな投資です。
また、 これまで借地料は安定して上昇を続けてきました。
これによって、軍用地投資の利回りは少しずつ高まっていきます。
近年、軍用地投資の利回りは2%弱となっており、ローリターンの投資に見えるかもしれません。
しかし、借地料の増額によって、軍用地の利回りは長期的に上昇していき、やがて十分にミドルリターンと言えるレベルとなっていくのです。
借地料の支払いが始まったのは、沖縄が日本に復帰した1972年からです。
1972年から2017年までの借地料の推移は、以下の通りとなっています。
米軍基地推移 | 自衛隊基地推移 | |||||||
借地料(百万円) | 面積(ha) | 1haあたりの借地料(百万円) | 借地料上昇率 | 借地料(百万円) | 面積(ha) | 1haあたりの借地料(百万円) | 借地料上昇率 | |
1972 | 12,315 | 28,661 | 0.43 | 0.00% | 314 | 166.1 | 1.89 | 0.00% |
1973 | 17,715 | 28,387 | 0.62 | 45.24% | 532 | 193.1 | 2.76 | 45.74% |
1974 | 25,538 | 27,671 | 0.92 | 47.89% | 900 | 339.5 | 2.65 | -3.78% |
1975 | 25,951 | 27,048 | 0.96 | 3.96% | 944 | 358.7 | 2.63 | -0.73% |
1976 | 25,912 | 26,653 | 0.97 | 1.33% | 922 | 359.1 | 2.57 | -2.44% |
1977 | 25,245 | 26,302 | 0.96 | -1.28% | 823 | 336.5 | 2.45 | -4.74% |
1978 | 27,617 | 25,926 | 1.07 | 10.98% | 927 | 341.7 | 2.71 | 10.92% |
1979 | 29,368 | 25,862 | 1.14 | 6.60% | 982 | 369.2 | 2.66 | -1.96% |
1980 | 31,116 | 25,587 | 1.22 | 7.09% | 1055 | 367.9 | 2.87 | 7.81% |
1981 | 33,773 | 25,401 | 1.33 | 9.34% | 1196 | 369.7 | 3.24 | 12.81% |
1982 | 34,507 | 25,191 | 1.37 | 3.02% | 2892 | 378.0 | 7.65 | 136.50% |
1983 | 35,468 | 25,376 | 1.40 | 2.04% | 3056 | 593.0 | 5.15 | -32.64% |
1984 | 36,772 | 25,360 | 1.45 | 3.74% | 3078 | 585.0 | 5.26 | 2.10% |
1985 | 38,314 | 25,373 | 1.51 | 4.14% | 3219 | 587.0 | 5.48 | 4.22% |
1986 | 39,932 | 25,361 | 1.57 | 4.27% | 3261 | 597.0 | 5.46 | -0.39% |
1987 | 39,402 | 25,307 | 1.56 | -1.12% | 3435 | 577.0 | 5.95 | 8.99% |
1988 | 40,671 | 25,027 | 1.63 | 4.38% | 3706 | 597.0 | 6.21 | 4.27% |
1989 | 42,650 | 25,026 | 1.70 | 4.87% | 3962 | 654.0 | 6.06 | -2.41% |
1990 | 44,726 | 25,024 | 1.79 | 4.87% | 4169 | 655.5 | 6.36 | 4.98% |
1991 | 47,031 | 25,013 | 1.88 | 5.20% | 4527 | 654.6 | 6.92 | 8.74% |
1992 | 51,690 | 25,012 | 2.07 | 9.91% | 5124 | 656.5 | 7.81 | 12.86% |
1993 | 55,140 | 24,530 | 2.25 | 8.77% | 5629 | 654.9 | 8.60 | 10.12% |
1994 | 57,707 | 24,526 | 2.35 | 4.67% | 6128 | 647.5 | 9.46 | 10.11% |
1995 | 60,317 | 24,447 | 2.47 | 4.86% | 6701 | 648.9 | 10.33 | 9.11% |
1996 | 63,043 | 24,306 | 2.59 | 5.13% | 7336 | 648.7 | 11.31 | 9.51% |
1997 | 66,210 | 24,286 | 2.73 | 5.11% | 8045 | 648.8 | 12.40 | 9.65% |
1998 | 68,245 | 24,283 | 2.81 | 3.08% | 8432 | 648.8 | 13.00 | 4.81% |
1999 | 70,484 | 23,759 | 2.97 | 5.56% | 8895 | 645.1 | 13.79 | 6.10% |
2000 | 72,811 | 23,754 | 3.07 | 3.33% | 9332 | 642.0 | 14.54 | 5.42% |
2001 | 75,064 | 23,753 | 3.16 | 3.10% | 9804 | 642.1 | 15.27 | 5.04% |
2002 | 76,451 | 23,729 | 3.22 | 1.95% | 10305 | 637.1 | 16.17 | 5.94% |
2003 | 76,568 | 23,687 | 3.23 | 0.33% | 10570 | 641.4 | 16.48 | 1.88% |
2004 | 76,991 | 23,681 | 3.25 | 0.58% | 10681 | 641.4 | 16.65 | 1.05% |
2005 | 77,542 | 23,671 | 3.28 | 0.76% | 10864 | 640.0 | 16.98 | 1.94% |
2006 | 77,670 | 23,668 | 3.28 | 0.18% | 11094 | 639.6 | 17.35 | 2.18% |
2007 | 77,682 | 23,302 | 3.33 | 1.59% | 11350 | 697.1 | 16.28 | -6.13% |
2008 | 78,375 | 23,293 | 3.36 | 0.93% | 11512 | 696.6 | 16.53 | 1.50% |
2009 | 79,090 | 23,293 | 3.40 | 0.91% | 11639 | 678.2 | 17.16 | 3.85% |
2010 | 79,295 | 23,294 | 3.40 | 0.26% | 11797 | 677.7 | 17.41 | 1.43% |
2011 | 79,849 | 23,247 | 3.43 | 0.90% | 11956 | 677.6 | 17.64 | 1.36% |
2012 | 81,125 | 23,176 | 3.50 | 1.91% | 12173 | 666.1 | 18.28 | 3.57% |
2013 | 83,240 | 23,176 | 3.59 | 2.61% | 12597 | 666.2 | 18.91 | 3.47% |
2014 | 84,514 | 23,098 | 3.66 | 1.87% | 12774 | 692.3 | 18.45 | -2.42% |
2015 | 84,798 | 22,992 | 3.69 | 0.80% | 12952 | 694.4 | 18.65 | 1.09% |
2016 | 85,843 | 22,988 | 3.73 | 1.25% | 12945 | 692.1 | 18.70 | 0.28% |
2017 | 86,662 | 18,822 | 4.60 | 23.30% | 12753 | 693.1 | 18.40 | -1.63% |
全期間合計 | 74347 | -9838.6 | 4.17 | 871.55% | 12439 | 527.0 | 16.51 | 773.32% |
この推移を見れば、借地料がわずかに減額されている年もあるものの、長期的にはしっかりと増額を続けてきたことが分かります。
借地料が上がる仕組み
軍用地の 借地料予算は、毎年12月の閣議決定において決定されます。
この時、沖縄県軍用地等地主連合会(軍用地主4万人以上によって構成される組織)と政府の間で交渉が行われ、翌年の借地料が決定されます。
政府が軍用地主とトラブルを起こすことなく軍用地を借りるためには、地価の上昇やインフレなども考慮し、軍用地主が安心して土地を貸せるだけの借地料を支払う必要があります。
もし、大幅に減額されたり、借地料の上昇幅が軍用地主の期待と大きく乖離している場合には、軍用地主が軍用地の提供を渋り、基地の運営に支障をきたす可能性があります。
だからこそ、 政府と軍用地主の間で話し合い、落としどころを見つけて、借地料が増額されるのです。
賃貸借契約は20年ごと
なお、政府と軍用地主の賃貸借契約は、20年ごとに更新される仕組みとなっています。
この契約では、沖縄の特殊性に配慮しつつ、軍用地の借地料や土地の評価を適切に見直すために交渉することも決められているため、契約期間中であっても交渉が行われ、借地料の見直し・増額が行われます。
とはいえ、 毎年の交渉もさることながら、政府と軍用地主の双方にとって「勝負所」となるのは、20年ごとの契約更新です。
この賃貸借契約は1972年に始まっており、1回目の契約更新は1992年、2回目の契約更新は2012年、そして 次回3回目の契約更新は2032年に予定されています。
上記の表では、緑に塗られた行が、契約更新の年にあたります。
契約更新は借地料引き上げのチャンス
契約更新の際、軍用地主は強気に出るのが普通です。
沖縄の米軍基地は、日米安保条約に基づいて運営されているものであり、もし軍用地主が契約更新に応じないとなれば、日米関係の問題にも発展しますし、日本の国防にも重大な影響を及ぼします。
だからこそ、政府としては何としても契約を更新する必要があります。
一方、 軍用地主は、契約更新という非常に強い交渉カードを持っているため、借地料の引き上げ幅についても強気に交渉することができます。
軍用地主が契約更新を拒めば政府は困るのですから、ある程度の要求は呑んでもらえるという立場で、有利に交渉を進められるのです。
政府も、軍用地主の要求をある程度は呑んで、契約の更新を優先します。
過去の契約更新の様子
実際、第1回目の契約更新にあたる1992年、米軍基地の借地料は9.91%、自衛隊基地の借地料は12.86%という大幅な引き上げとなっています。
米軍基地では1982年以降、自衛隊基地では1979年以降で最大の引き上げとなっており 、契約更新の際に軍用地主が強気に交渉した様子が分かります。
ただし、軍用地主の要求を容易に呑めない事情がある場合には、政府も要求を拒むことがあります。
それが顕著にみられたのが、第2回目の更新にあたる2012年です。
この時、沖縄県軍用地等地主連合会は政府に対し、借地料を1.96倍に引き上げるように要求しています。
沖縄県軍用地等地主連合会の会長として交渉に当たった浜比嘉会長でした。交渉相手である一川防衛相に対し、「要求通りに引き上げなければ契約更新は難しい」と迫り、さらに沖縄県軍用地等地主連合会の決起集会では、
「われわれが団結し、金額に合意するまで契約同意書を渡さなければ、政府は必ず折れてくる」
と、かなり強気の姿勢で交渉しました。
しかし、軍用地主の要求は「借地料上昇率96%」の受け入れです。
過去に前例のない引き上げであり、例年数%で引き上げてきたことと比較すれば異常ともいえます。
この要求を呑んでしまえば、今後の借地料交渉の悪しき前例にもなりかねないため、さすがの政府も拒否せざるを得ませんでした。
特に、2011年には東日本大震災が起こっており、政府は復興のために多額の予算を引き当てている時期であり、借地料予算を大幅に引き上げることは困難な状況でした。
もし、軍用地主の要求を呑んでしまえば、被災者への支援を最優先すべき政府が、軍用地主の利益を図ったとして、強い非難を受ける恐れもあります。
実態はどうあれ、軍用地主は富裕層というイメージが強く、実際にそのような側面も否めないのですから、被災者の支援と軍用地主の便益は並行しづらいものです。
このような特殊な事情があったため、2012年は軍用地主の要求する「借地料1.96倍への増額」は認められず、政府の要求である「1.1%増額」で折り合いをつけることとなりました。
軍用地主にとっても契約更新は必須
上記の通り、政府は何としても契約を更新しなければならない立場にあり、契約更新にあたっては軍用地主が有利な立場と言えます。
しかし、 軍用地投資は、政府が借地料を支払うことで、初めて成り立つものです。
契約更新は政府だけではなく、軍用地主にとっても必須のものです。
政府の財政が豊かでありながら、借地料の引き上げを渋っているならば、軍用地主は政府が折れるまで強硬姿勢を貫くこともできるでしょう。
しかし、東日本大震災後の2012年、軍用地主の要求はあまりにも無理があったため、最終的には妥協せざるを得なかったのです。
このように、20年ごとの契約更新は、軍用地主が強気に交渉し、借地料を大幅に引き上げるチャンスですが、それが必ず通るとも限らないのが実情です。
次の更新は2032年
2012年のような例もあり、
契約更新の際に借地料が大幅に引き上げられるとは限りません。
また、政府の財務事情は逼迫しています。
先日、2020年度予算の概算要求の見通しが105兆円規模になることが発表されており、2年連続で過去最高額を更新、100兆円超えは6年連続です。
特に顕著なのが、社会保障費の伸びです。
少子高齢化が進む日本では、医療・介護・年金など、社会保障制度の負担が増大しており、今後もこの流れが大きく変わるとは思えません。
全国民を対象とする社会保障費の増大と、一部の軍用地主の借地料の増額は両立しにくいものですから、政府は借地料の引き上げに慎重になることが懸念されます。
2032年の契約更新の際にも、政府が財政事情を理由に、大幅な引き上げを拒む可能性が考えられます。
軍用地の契約更新は、過去に2回しか前例がないため、次回の更新で借地料がどれくらい引き上げになるか、予測することも困難です。
とはいえ、契約更新の直前となるタイミングで、東日本大震災のような 大きな問題が起こっていなければ、それなりに満足のいく引き上げが実施される可能性も十分にあるでしょう。
軍用地主の間では、2032年の契約更新では、例年の倍以上の増額が確実視されているようです。
これも軍用地投資のメリットの一つとして知っておくと良いでしょう。
まとめ
軍用地の借地料は、毎年少しずつ引き上げられています。
これが、軍用地投資のリターンの上昇につながるため、必ず知っておくべきポイントです。
また、 20年ごとの契約更新にあたり、借地料が大幅に上がる可能性があります。
次回の更新は2032年であり、例年より大幅な引き上げが期待されています。
これから軍用地投資に取り組む人は、契約更新による借地料引上げへについても、軍用地投資のメリットの一つと考えておきましょう。